世界一の日本酒が決まる Sake Competition 2016 表彰式・授賞パーティー レポート〈後編〉
前編に引き続きSake Competition授賞パーティーの模様です。世界で活躍する中田英寿さんが演出。昨年までは各酒蔵のブースが並ぶ立食形式だったそうですが、今年は着席、受賞酒はソムリエさんがサーブ、ステージに受賞者が立って挨拶、というアカデミー賞授賞式のようなきらびやかな雰囲気の中で。
**前編**に引き続き、世界一の日本酒を選ぶ Sake Competition 2016 の模様をお伝えします。
アカデミー賞授賞式のような豪華な授賞パーティー
表彰式のあとは、世界で活躍する中田英寿さんが演出した授賞パーティー。昨年までは各酒蔵のブースが並ぶ立食形式だったそうですが、今年は着席、受賞酒はソムリエさんがサーブ、ステージに受賞者が立って挨拶、というアカデミー賞授賞式のようなきらびやかな雰囲気の中でとり行われました。
中田英寿さんが語るSake Competitionの意義と役割
パーティーを演出した中田英寿さんは、Sake Competition の役割について、「いま日本酒が国内・国外で人気が出てきている。しかし、まだまだ銘柄指定で飲まれる方は少ない。それは情報が少ないことと、銘柄がわかりづらいことが原因。その中で少しでも多くの方に銘柄を覚えてもらい、日本酒を選びやすくしていく、という役割を Sake Competition が担っていく。多くの方に自分の好きな1本を見つけてもらえるようになってほしい」と語りました。
また、今回新設された Super Premium 部門について、「日本酒は安くておいしいものが多いが、その中で値段が高く飲む時に憧れになるような銘柄が少ない。ワインと比べると価格帯の幅が狭い日本酒の中では、この賞は大きな意味を持つ」とその意義を語りました。
グランドハイアットのオリジナルコース料理
その中田英寿さんが演出した授賞パーティー。日本酒はもちろんワイングラスで、コース料理は地元の食材(和の食材)をふんだんに使い、素材の味を活かした料理。フランス料理の伝統を受け継いだ現代のグローバル料理と言える内容でした。「食中酒としての日本酒」を評価する Sake Competition のコンセプトに沿った、日本酒に合う料理です。
写真手前のお皿、右奥から時計回りに。
自然塩でマリネした真鯛 岩海苔のビネグレット サルディーニャ産ボッタルガ
蕎麦粉のガレット 生ハム ミモレットチーズ
鴨胸肉の赤ワイン蒸し 新牛蒡と実山椒
北海道産帆立貝のセビーチェ 柚子の香り
鰹のシアード シャロットとハーブのサラダ添え
そして中央奥の小皿には「酒粕を使って発酵させたパン2種」です。
どれも見た目が美しく繊細な味わいで、特に口の中での香りのハーモニーを楽しめました。「自然塩でマリネした真鯛 岩海苔のビネグレット サルディーニャ産ボッタルガ」が一番のお気に入りでした。
続いては、スープ。「山形県産玉蜀黍の冷製スープ コンソメジュレ」。
こちらも、テクスチャ、温度、味わい、香りすべてを楽しめました。コンソメジュレがスープのとうもろこし感とクリーミーさを引き立てる感じがいいなと思いました。
メインは、
国産牛サーロインの網焼き 天然塩 刻み山葵
石川芋のロースト 茸のソテー
サーロインはとろけるような口当たり。付け合わせにも全力をかけているのが感じられました。石川芋のローストの食感と味、サーブされた時の温度がちょうどよく、相反しそうなホクホク感とモッチリ感が同時に楽しめました。参加者250名分をこの状態でサーブするのはさすがプロだと思いました。
そしてデザートは、「ルバーブと無花果のタルト バニラアイスクリームとキャラメルソース」。最後まで心に残る料理でした。
受賞酒上位のお酒は完成された味わいに個性も表現できている
上位受賞酒のうちいくつかをテイスティングしました。雑味がなくシンプルで、香りと味の時間軸での掛け合いを楽しめるお酒が多かったです。
その中で、1位、2位をとったお酒には、完成された美しい味と香りの曲線にちょっと外れた個性が入っているものが多かったように感じました。こういうお酒を造るのは、シンプルな甘味・酸味・苦味と吟醸香、のような完璧なスタイルのお酒を造るより難しいのかもしれません。
Super Premium 部門で1位に輝いた「来福 超精米 純米大吟醸」は、上立ち香はリンゴ様、純度の高いカプロン酸エチルの香り、きれいに出ているが派手すぎない。テクスチャーは空気を口の中で転がしているような軽やかさ。シンプルな甘味、上品でキメの細かい酸味、華奢な苦味。酸味はスーッと口腔内を上がっていき、くっきりとした輪郭を形作ります。
香りといろいろな味がが口の中でふわっと上がってくるタイミング、お互いを引き立てて全体として美しいハーモニーを奏でる様子。目を閉じて時間の経過による香りと味の変化をじっくりと楽しむことのできるお酒でした。
ステージでは各部門10位までの蔵元さんのお披露目
パーティーの中盤では、各部門10位までの受賞者がステージに上がり喜びのコメント。
吟醸部門で7位を受賞した「紀土 KID 大吟醸」、和歌山県海南市の平和酒造が醸すお酒です。筆者が主催する日本酒の会「町家でお酒を楽しむ会」にゲストで出ていただいたこともある山本専務に会場でお会いしました。
「おめでとうございます」とお祝いの言葉をおかけしたところ、「3位以内に入らないとダメなんですよ〜」と山本専務。そしてステージでの挨拶では「次は6個飛び越えて1位を取りたい」と意気込みを語っていました。
地元の酒蔵、澤屋まつもとが特別賞
筆者の地元、京都からも15蔵が出品されたのに入賞していなくて残念(月桂冠の「伝匠 大吟醸」は吟醸部門Silverに入っています)でしたが、大好きな「澤屋まつもと 純米酒」が特別賞の「はせがわ酒店賞」を受賞しました。主催者の長谷川さんも毎日飲んでいるそうです。うれしいですね!
受賞酒は東日本・東北地方が圧倒的な強さ
ここで、受賞したお酒を地域別にざっくり見ていきます。
三大酒処がある西日本(富山・岐阜・愛知3県以西)のお酒が目立たない印象でしたが、カウントしてみると出品した蔵の数ではほぼ半々でした。
10位以内に入った品目の数ではやや東日本が多いという結果でした。
ただ、上位3位以内に限ると東日本の力が強いですね。
授賞パーティーでは、関西の蔵元さんや杜氏さん何人かにお会いしました。筆者は京都在住で普段から西日本の日本酒を飲んでいます。西日本の酒蔵さんを引き続き応援していきたいと思った次第です。
これがいまの日本酒シーンだ!
今回、Sake Competition 授賞パーティーに参加して、いまの日本、世界の日本酒シーンを見ることができました。特に、東京をはじめとする都市部で人気がある酒質の日本酒、ワイングラスで海外で受け入れられているであろう日本酒を実感できたことはとても貴重な体験でした。
食中酒としての最高の品質を追求した、技術の粋を尽くした日本酒の一つのジャンルが確立されていると感じました。Sake Competition のコンセプト「味や香りといった品質だけでなく、料理との相性や飲みやすさなど、飲んで楽しむ酒として優れている、消費者が買うことのできるお酒」には共感できます。
幅広い日本酒をもっと多くの方に楽しんでもらいたい
ただ、日本酒の香りと味の幅はもっと広いです。吟醸香よりもどっしりとした味わいや米のふくよかさを感じる日本酒、洗練された無添加生酛や無添加山廃造りの日本酒、吟醸酒の世界ではオフフレーバーとされている香りをうまくバランスをとって特徴としている日本酒。このような日本酒の幅広い味わいを多くの方に知ってもらいたい、世界の方々に楽しんでもらいたいと感じました。
生酛・山廃
Sake Competition の出品要項には「生酛・山廃も出品可能」とあります。10位以下のSilverを受賞したものの中には川敬商店の「黄金澤 山廃純米酒」や澄川酒造場の「東洋美人 山廃純米吟醸」などが入賞していますが、上位10位には「生酛」や「山廃」と銘打たれたものは見当たりませんでした(特に表記していないが生酛系の造りをしているものはあるかもしれません)。
生酛・山廃造りのお酒は料理と合わせる食中酒として優秀なお酒だと思っています。ここ5年位で、新政や川敬商店の橘屋など、このコンペティションで高い評価を受けるであろう、いわゆる「きれい系」の生酛・山廃を醸す蔵が増えてきています。加えて、乳酸の添加が欧州などへの輸出の際の非関税障壁となるリスクをはらんでいる今、生酛・山廃造りで入賞するお酒が今後増えていくのではないかと思われます。
ちなみに、筆者はきれい系の生酛・山廃をワイングラスで楽しむのも、どっしりしたフルボディの山廃を熱燗で飲むのも大好きです。
プレミアム日本酒がひらく未来
また、Super Premium 部門での「日本酒のプレミアム化と適正価格を目指す」点にも大いに賛同します。
中田英寿さんが指摘しているように「安くておいしいお酒がたくさんある」というのはいいことです。それは、多くの蔵元さんが原価に一定の利益を積み上げるという、とても謙虚な値付けをしているから成り立っています。
製造コストベースではなく、その酒の「価値」に値付けする方法をもっととってもいいのではと筆者は考えます。消費者が価値を見出すのは、日本酒という液体そのものではなく、日本酒を飲んで味わうことで得られる体験だからです。世界にも類を見ない技術と歴史の結晶である日本酒には、体験によるプライスレスな価値を与える大きな力があるのです。
これからが楽しみなコンペティション
主催者の長谷川さんは「年々出品酒の品質が上がってきている」といいます。市販酒を対象とするコンペティションで全体的に品質が上るということは、日本酒全体の品質が上がっていることにほかなりません。これからどんな日本酒が出品され、選ばれるか、そしてそれが消費者に受け入れられていくか。今後がとても楽しみなコンペティションだと感じました。