「舞美人」美川酒造場訪問記

6代目の蔵元杜氏、美川欽哉さんに蔵の中を案内していただきました。酒造りの入り口である米作り、和釜や木槽など伝統的な道具を使った酒造りについてお話をいただきました。

「舞美人」美川酒造場訪問記

酒粕再発酵酒SanQで有名な個性派酒蔵、「舞美人」の美川酒造場を訪問しました。

美川酒造場

美川酒造場は福井県福井市の東部、足羽川沿いに蔵を構えています。

6代目の蔵元杜氏、美川欽哉さんに蔵の中を案内していただきました。酒造りの入り口である米作り、和釜や木槽など伝統的な道具を使った酒造りについてお話をいただきました。そして舞美人7種類のテイスティングをする機会にも恵まれ、「舞美人らしさ」を感じることのできた一日でした。

自社田

酒蔵の周りは見渡す限りの水田。米どころ福井平野らしい風景です。美川酒造場には自社田があり、酒米五百万石と山田錦を栽培しています。

美川酒造場の自社田・五百万石

こちらは五百万石の水田。

美川酒造場の自社田・山田錦

そしてこちらは山田錦。どちらも稲刈りが済んだあとでした。

美川酒造場では11月から酒造りが始まります。ちょうど米作りから酒造りに移り変わる季節です。

農家から酒造家へ

美川家はもともと農家で、代々地主として米作りに携わってきましたが、明治20年、今から130年ほど前に酒造りを始めます。米を大量に使うことができる農家としての利点を活かしてのことでした。

自社田で酒米を栽培

酒造りを始めたあとも、美川家の水田では一般米を栽培していました。最近では福井県が発祥のコシヒカリを栽培していました。

しかし、5年ほど前に酒米作りを始めます。酒米は栽培が難しく、手間もかかります。それでも栽培してくれる契約農家の方は理解を示してくれたそうです。

今では原料米の30%を自社田で栽培、残り米も全て福井県産のものを使って酒を造っています。

福井県内の酒蔵でも田を借りて酒米を自社栽培しているところがありますが、自社田を持っているところはほとんどないそうです。

蔵の中へ

蔵の玄関には数々の賞状と並んで、大きな書が飾られています。酒粕再発酵酒のラベルを書いた方の作品です。

舞美人の書

美川さんに、酒造りの工程の順をたどって蔵の中を案内していただきました。

仕込み水

こちらは仕込み水を組み上げる井戸。美川酒造場にはかつて数本の井戸がありましたが、今使っているのはこの一つ。水量は豊富です。

仕込み水の井戸

日本酒の80%を占める水。その性質は酒の味わいに大きく影響します。

美川さんによると、ここの仕込み水は軟水だがミネラルが多く塩分が少ない、醸造に適した水質だそうです。井戸の深さは約80メートル、一年を通して水温は15度に保たれます。夏は冷たいけど冬は温かく感じるとのことです。

とても柔らかくまろやかな口当たりでした。

仕込み水

和釜で米を蒸す

仕込み水と原料の米が最初に出会うのは洗米と浸漬、そして米を蒸す工程です。

この木桶は洗った米を浸漬するのに使っています。木桶を使って浸漬しているところは珍しいのではないでしょうか。

米を浸漬する木桶

そして米を蒸す釜。昔ながらの和釜です。この上に甑(巨大なせいろ)をおいて米を蒸します。

和釜は何年かに1度メンテナンスが必要で、今年は土台のコンクリートを打ち直して酒造りに備えたそうです。蒸し加減の微妙な調整、火が当たる場所などの調整

和釜

和釜はとても重く、メンテナンスのときには4人がかりで持ち上げたとのこと。

美川酒造場では、普段は3人で酒を造っていますが、人手が必要なときには酒販店や飲食店、お酒ファンの方が手伝ってくれるそうです。そのほか、福井大学工学部の学生さんもアルバイトで酒造りに参加してます。

蔵付き酵母

次に案内していただいたのが、酒母室。酒を発酵させるスターター、酒母を造る部屋です。

酒母室

舞美人のお酒の約半分は山廃仕込み、その全ては酵母無添加、つまり蔵付き酵母を使っています。速醸のお酒の酒母も蔵付き酵母と福井県の酵母の両方を使っているとのことです。

仕込み蔵

酒を仕込んだり、熟成させる仕込み蔵。内部の気温は冬場は2〜4度、夏場でも27〜28度。「熟成にピッタリの環境」と美川さん。

仕込み蔵

酒造り前には蔵じゅうの洗浄と消毒をおこないます。来月から酒造りが始まるので、その作業の真っ最中でした。酒母室も例外ではなく、壁も天井も消毒します。それでも蔵付き酵母はやってくるそうです。

櫂棒

こちらの櫂棒は速醸用のものがFRP製、山廃用のものが木製。美川さんのこだわりです。

木槽搾り

舞美人の一番の特徴「木槽搾り」。酒を上槽する(搾る)ときには自動圧搾機を使わず、昔ながらの木製の木槽を使っているのです。

上槽室

ここは酒を搾る部屋。でもここにあるはずの木槽の姿は見えません。

雨ざらしの木槽

舞美人のハート、木槽はなんと外にありました! 雨ざらしです。

酒造りに使っていない夏の間、木槽の木材が乾燥して隙間ができます。このままだと酒が隙間からこぼれ出てしまいます。こうやって外に置いて雨にあてることで木材が膨らみ、隙間が埋まるのです。

木槽の溝

木槽には醪の入った酒袋を9枚並べます。それらを10から20段重ね、上から圧力をかけて搾ります。木槽の底に刻まれた溝を通って酒が流れていきます。美しい造形です。伝統の機能美です。

木槽の槽口

こちらは、その酒が出てくる槽口(ふなくち)。

木槽搾り

実際に酒を搾っている時の様子の写真が蔵に飾られていました。搾りたての酒を楽しむ皆さんの表情、空気感に思わず心がほころびます。

木槽の内側に刻まれた番号

木槽の内側には数字が刻まれています。竹でできた板を正しくはめ込むためのガイドです。酒造りのオフシーズンに分解して保管されたものを、洗浄・消毒して組み立てるのに必要なのです。

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この木槽は大正時代に購入したものだそうです。100年近く使われていることになります。

酒粕再発酵

私が舞美人に胸キュンしたきっかけの酒粕再発酵酒はこの小さな槽で搾っています。年間一升瓶で120本しか造らない貴重な個性派酒です。

酒粕再発酵酒の槽

残念ながら酒粕再発酵酒の造りは終わっていたので再発酵する様子を見ることができませんでした。4月から6月の気温が30度近くになるときでないと再発酵しないそうです。

でも、幸運なことにこのあと28BY最後の酒粕再発酵酒を利き酒することが出来ました。

舞美人、7本をテイスティング

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舞美人の酒造りを説明していただいたあとは、7種類ものお酒を利き酒する機会に恵まれました。美川さんに感謝です。

酒粕再発酵酒

まずは「酒粕再発酵酒」。私はこの酒と山廃に惚れてこの蔵見学をお願いしたのです。28BY最後のものです。

木槽搾りで出たやわらかい酒粕を再びタンクに入れ、酵母を追加して発酵させるお酒です。

酒粕再発酵酒

飲食店などでは、酒粕再発酵酒をさらに熟成させたものが提供されることが多いですが、こちらは新酒。

ドライフルーツやトロピカルフルーツの香りのあるしっかりした味わいのお酒。冷やしても常温でも燗酒でも、それぞれ違った楽しめ方のできるお酒dす。

👉 舞美人 H27BY 山廃純米 酒粕再発酵酒|日本酒テイスティングノート こちらに酒粕再発酵酒の詳しいストーリーがあります

ハナエチゼンの特別純米酒

舞美人 特別純米 無濾過生原酒 28BY

こちらは主に福井県で栽培されるハナエチゼンを使った特別純米酒。ハナエチゼンは酒米ではありませんが、福井県や京都府で主にかけまいとして酒造りに使われれています。

舞美人のハナエチゼン酒は、麹米も掛米もハナエチゼン。美川酒造場では、麹米と掛米を別の品種にしたり、精米歩合をかえたりすることはしないとのこと。

アタックはしっかり、舞美人らしい酸味と香りを感じました。余韻に柑橘の香りのあるお酒です。

👉 舞美人 特別純米 無濾過生原酒 28BY|日本酒テイスティングノート

85%精米山田錦の特別純米酒BY違い飲み比べ

85%精米山田錦の特別純米酒BY違い飲み比べ

自社田の山田錦を使った酒です。85%と低精白ですが、比較的軽やかなテクスチャー。でも舞美人的な酸味は強く感じました。

👉 舞美人 自社田山田錦85 特別純米 無濾過生原酒 27BY|日本酒テイスティングノート

蔵付き酵母山廃仕込み

舞美人 蔵付き酵母山廃仕込み

ハナエチゼンを使い、蔵付き酵母で仕込んだ山廃。余韻の酸味が心に残る、米と柑橘の香りのお酒です。最も舞美人らしさを感じました。

👉 舞美人 蔵付き酵母仕込み 山廃純米酒|日本酒テイスティングノート

2009年醸造の古酒

舞美人 2009年醸造の古酒

2009年醸造の古酒。常温熟成です。原料米はピロール農法で栽培されたコシヒカリ。マンゴーやパッションフルーツのトロピカルな酸味の強いフルーツの香りを楽しみました。

純米大吟醸

舞美人 純米大吟醸

白ワインのような甘味と酸味が特徴のお酒でした。舞美人の中では上品な酸味ととろりとした甘味が特徴的なお酒です。

一本筋の通った「舞美人らしさ」

7種類の舞美人をテイスティングして、山廃、純米大吟醸、古酒、酒粕再発酵酒と多様なバリエーションの中すべてに、どこか「舞美人らしさ」を感じました。それは力強い独特の酸味と米の香りです。でもそれだけでは表現できない「舞美人的な何か」を心で受け止めました。

一本筋の通った「舞美人らしさ」がその強烈な個性の印象を与え、多くのファンの心を掴んでいるのでしょう。

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(2017年10月25日)