人が集まる「場」を残す|おこぶ北淸・北澤雅彦さん インタビュー
京都市伏見区の「おこぶ北淸」の北澤雅彦さんのお話をInstagramでライブ配信した内容を、後日改めてインタビューした内容と合わせてご紹介します。
京都市内の多くの飲食店が営業自粛になっていた4月末、伏見区中書島にある日本酒が飲めるだしカフェ・だしバー「おこぶ北淸」のマスター北澤雅彦さんにお話を伺い、日本酒コンシェルジュUmioのInstagramでライブ配信しました。その時の内容を、後日改めてインタビューした内容と合わせて、まとめてご紹介します。
人が集まるパワー。集まることが楽しい!
北澤さんはもともと、「おこぶ北淸」のとなりにある昆布店の一角で「Standing Drinkin 月一(つきいち)」などのイベントを開催していました。私も何度か参加しましたが、いつもすごい人だかりで、ワクワクする場でした。
「人が集まるパワーを感じました」と言うと、北澤さんは目を輝かせ、「別に何でもないところに、どうしてみなさんが楽しみに来てくれるのかと不思議に思っていました。決まった時間にたくさんの人が集まって。そこで飲んだり食べたりすることが楽しいんだなと、すごくわかりました」と答えます。
3年前、昆布店の隣におだしカフェ&バーの「おこぶ北淸」を開いたのは、その「楽しさ」が原点だったといいます。
「昆布店の一角で生まれた楽しさをこの店でも実現させたかったんです。そういう気持ちよさとか、心地よさとか、家では味わえない空気感とかをお店で提供したいなと思っていました」。
「おこぶ北淸」でイベントを開催するときは、椅子を片付けて行う立ち飲みスタイルで、店の中は集まった人たちでいっぱいになります。「それは、今は全くできないですね。でもこれからのアフターコロナの時代でもこれまでと同なじように人を求めあって集まる文化は、なくならないと思うんですよ」北澤さんは熱く語ります。
1ヶ月の休業
インスタライブの前日(4月28日)にテイクアウトのお弁当を始めるまで、「おこぶ北淸」は約1ヶ月の間、休業していました。
「この店を始めてから3年になりますが、飲食店というのは一度始めるとなかなか休めないんです。今回1ヶ月ほど休んで、色々振り返ることがありました。これから次にコロナとどう付き合っていくかと考えてばかりいました。そういう意味では、よいきっかけでした」北澤さんは続けます。
「新型コロナウイルスとは何なのか、だいぶ勉強しました。それから小津安二郎の映画を見たりしていました。そこで描かれている人々の素朴な生き方。第二次大戦で焼け野原になって、それを乗り越えていったあとのこと。バブルをきっかけにだいぶ変わってしまったけど、いま、いろいろなことが見直されるきっかけになったと思います」。
テイクアウトのお弁当
北澤さんは1ヶ月の休業を終え、お弁当のテイクアウトという形でお店を再開しました。昆布やだしのうま味を堪能できる料理がスタイリッシュに詰められています。
北澤さんは、容器にもこだわったといいます。「料理は目で食べるもの、見て味わうものだからです。せっかくの料理をプラスチックの容器に入れるのではなく、こだわった弁当箱にいれたかったんです」。
お弁当をテイクアウトした人々がSNSに投稿してくれることも増え、新しいお客さんにアプローチできていると北澤さんは語ります。
店頭のほか、隣の商店街で開催されていた「大手筋お弁当マルシェ」にも共同で出店もしました。休校で子供が家にいてご飯を作るのが大変だと、弁当を求めるお母さんたちも多く、すぐに売り切れてしまったといいます。「お弁当でお店のことを知ってくれて、行きたいですという方も多かったですね。このお弁当はお店へのインビテーションになってくれているんです」と北澤さんは語ります。
次に進む
おこぶ北淸では毎日一番だしを引いています。今、家庭でだしをひくことは労力やコスト的にもそぐわなくなってきていると北澤さんは指摘します。そこで、お弁当テイクアウトと合わせて試験的に一番だしの販売をはじめました。
将来的には食材やレシピと一緒に販売して家庭で楽しんでもらえるようにしたいと、試行錯誤を重ねています。さらにはだしパックの開発も始めています。これらは以前から計画していながらあまり進んでいなかったけれど、コロナ禍で実行のきっかけになったといいます。
同じ場所を共有する
「いま、オンラインで飲み会をされている方が多いですけど、やはり家で飲んでいても楽しくない、という声はよく聞きますね。集まる場の雰囲気が楽しいんですね。みなさん、強烈にそれを欲しているんです」。
これから、同じ時間と空間を共有する気持ちよさを、これからどうやって実現してしていけばいいのか。北澤さんにとって、これは「宿題」だと感じています。
「人類は過去に疫病を乗り越えてきました。時間がかかるかもしれないけど、人は必ずまた集まれるようになると思います。それまでに、みんなが集まる、みんなが好きな場所をどのようにして残していくか。これが僕らの宿題です」。
インタビューを終えて
コロナ禍が収束しても、「人が集まる」場は前と全く同じには戻らないと考えます。北澤さんはその中で、人が集まる欲求に答える場を作り続けていくだろうと感じました。場作り・コミュニティーづくりのスタイルは少し変わったものになるかもしれませんが、人間の根源的欲求の一つである「集まって、語り合う」ことは変わることがないのです。
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「伏見帖」に登場する北澤さん
だしをもっと知りたい人のためにおすすめの本
この本にある、だしの引き方がロジカルでわかりやすいです。
参考資料
写真クレジット
- 写真2: 「月一」イベントで語らう人々。2014年8月。山野勝也さん撮影
- 写真3: 「おこぶ北淸」正面。2020年。北澤雅彦さん提供