軽やかで米を感じるクラシックな味わい「玉泉清酒(台湾)」世界のSakéテイスティングノート

〈世界のSakéレビュー〉台湾で最もポピュラーな清酒(Sake)、玉泉のスタンダード酒。室温で、そして冷やしておいしい晩酌酒。

軽やかで米を感じるクラシックな味わい「玉泉清酒(台湾)」世界のSakéテイスティングノート

冷やすとスルスルと飲める軽やかな酒

一言でいうと、クラシックな味わい。僕にとってのクラシックとは、きれいな吟醸酒でもなく、今風の個性を活かした味わいでもなく、飲み屋でただ「日本酒」とメニューに書かれていたレギュラー酒で、主張しすぎず、乳酸由来のやさしい香りがある酒だ。一緒にテイスティングしていただいた吉田酒造(滋賀県)蔵元杜氏の吉田肇さんは、「おいしい、昭和の普通酒の味がする」とコメントした。同じ場所で飲んで同じ風景を見る、一人で飲むより二人以上で飲むほうがいいのはこれがあるからだ!

乳っぽい香りに、アプリコット・バナナ・ジャックフルーツ、この酒の甘さは香りで成り立っている。やわらかな口当たりで、少しアルコールの刺激を感じる。でもアルコール度数は13.5度と低い。香りは次第に、白玉粉やウエハースなど米の甘さを連想させるものになっていき、ゆるやかに切れていく。あまり削らない米の酒によくあるデーツの香りもかすかにある。この酒は台中の南、彰化で栽培された台中9號を70%に精米したものを使って醸されている。

10度くらいに冷やすとすこしシャンとして、骨格ができた。よい! 50度くらいに温めると、ちょっと物足りなくなったけど、そこから冷ましていって35度位になるとよさが見えてくる。

テイスティングしたのは寒冷地の2月で、室温は15度位だった。台湾の気候にあった「室温」でも味わうべきだったかもしれない。いや、すでに遠く離れた土地で飲んでいるので、室温を合わせることにはあまり意味がない。その酒が造られた土地で飲むことと、違う場所で飲むことには大きな壁があるけれども、それ以外の飲み方の差は誤差でしかないのだ。

台湾の屋台料理をお手本にしたというMUJIのレトルト・ルーロー飯に青梗菜を添えて、冷やした玉泉清酒と合わせた。どんな料理にも合うタイプのお酒なので相性はよかった。味だけでなく同じ異国情緒でペアリングする効果もある。

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明治の末から続く台湾での清酒(Sake)造り

台湾では明治の末からすでに清酒が造られていた。1914年には冷房設備を備えた建物で四季醸造も始まった。歴史ある清酒醸造は戦後も続くが、1973年についに途絶えてしまう。1997年にこの酒「玉泉」がデビューするまで、24年間、清酒は造られていなかったのだ。TTL(臺灣菸酒股份有限公司)製造部門の張志成さんによると、技術資料は残されており、試験醸造も行っていたものの、再開には苦労が多かったという。

台湾での酒造り空白時代には、TTLが日本の月桂冠からレギュラー酒を輸入・販売していた。今でも輸入は続いているが、玉泉はこのポジションにある。都市部のスーパーやコンビニでは必ず玉泉清酒を見つけることができる。TTLは年間1,264キロリットル(約7,000石)の清酒を生産している(2015年)。2002年には8,597KL(約48,000石)だったのが漸減していているので、今ではさらに少ない数字と予想される。台湾といえばビールを思い浮かべる人が多いと思うけど、TTLのビール製造量は清酒の300倍だ。それでも、それなりの量の清酒が消費されているといえる。

台湾の晩酌酒

台湾には何度か旅したことがある。その全てが酒のための旅ではないけれども、人々が「玉泉」を飲む姿を見かけることはなかった。「玉泉」は誰がどこでどのようにして飲んでいるのだろうか?

台湾出身で、現在日本の酒販店に勤める謝翠翠さんは、「玉泉は常温でも燗酒でもおいしい晩酌酒です」と語る。うま味があり、主張が強すぎず、値段が手頃(600ml瓶で155NT$、日本円で約560円)だからだ。謝さんと彼女の両親(1950年代生まれ)は家で晩酌用の酒として玉泉を飲んでいるという。もちろん、家庭料理とともに食中酒として。

「華やかでないけど、このくらいがいいと思うようなお酒です。好きな酒です」玉泉で清酒の味を知った謝さんは、台湾ではポピュラーな日本物産展でのアルバイトを通して輸入される清酒と出会い、蔵元さんたちと話すことでこの世界に入ることになるが、いまでも玉泉が好きだという。

台湾の飲酒文化

旅行者である僕が見つけられなかった台湾の晩酌文化と食中酒文化がある! 台湾と日本、両方で酒のキャリアを積んだ謝さんに両国の飲酒文化の違いをレクチャーしてもらった。

「今度飲みに行きましょう!」より「今度食べに行きましょう!」。家庭内での晩酌文化はあるけれども、社交のために飲むことは少ない。台湾では飲み会よりも食事会が社交のツールとして使われる。社会人も学生も飲酒を伴う飲み会やコンパをしない。ここが日本との大きな違いだ(日本でも、会社飲み会をしな方向に向かいつつあるけれども)。

もちろん、台湾スタイルの居酒屋をはじめ、お酒を飲めるところはある。でも、社交よりも酒を楽しむために通う人が多いようだ。ひとり飲みをする人がかなりいて、ネガティブな印象も少ない。謝さんも台湾にいる頃はよく一人で居酒屋に飲みに行っていたという。

台湾の衛生福利部(日本の厚生労働省にあたる)によると、飲酒人口は43.0%(過去1年間に飲酒した人の割合)だ。基準が少し違うので単純に比べることはできないけれども、WHO調査の世界の飲酒人口の43.0%とほぼ同じで、世界的にみても標準的な数だ。ちなみに日本の場合は44.9%(厚生労働省)と少し多くなっている。

台湾の人はあまりお酒を飲まない、という印象だったけど、世界的には普通の水準、そして日本は世界的に見ても多いことは興味深い。

テイスティングノート その1

ごく淡い山吹色で、アルコールの香りと乳酸系のやわらかい香り。飲むと、口当たりはやわらかいがピリピリとした刺激が強く、酸味と苦味もそこそこある。余韻はアプリコットの香りと少しの甘味、苦味。もう少し切れがほしいかな。冷やして飲むとおいしい。全体的に荒々しさがあって、もう少し落ち着いてほしいなと感じた。

(テイスティング日: 2018年6月24日)

テイスティングノート その2

◯ 10°C、グラスで

スルスルと飲める。乳っぽい香りで、クラシックな日本酒を思わせる。

ミルキーで軽やか、爽やかさもあって、飲み進められる。やわらかな口当たりだけど、アルコールの刺激もある。そして白玉粉のような米の甘味を思わせる香りがやってきて、その後バナナやアプリコット、ジャックフルーツの香りも感じられる。

後口は少しくどい。デーツ・ウエハース・ポン菓子など米を感じる甘い香り。味は甘くないが、香りで甘さを出している。切れはそこそこで余韻は短かくミルキーなバナナの香りが佇む。

室温(15°Cくらい)、おちょこで

甘い香りはストロベリーと乳っぽい香り。ややうま味。

50°C、おちょこで

薄く感じる。後半に少し味が乗ってくる。

燗冷ましで36°C、おちょこで

甘みを感じる。ストロベリーの香りも。

(テイスティング日: 2021年2月4日)

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ラベル情報

玉泉清酒

  • 〈醸造元〉 臺灣菸酒股份(臺北市中正區)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 蓬莱米
  • 〈精米歩合〉 -
  • 〈杜氏〉 -
  • 〈特定名称/種別〉 穀類醸造酒
  • 〈アルコール度数〉 13.5度
  • 〈原材料〉 蓬莱米、米麹、醸造酒精
  • 〈製造年月〉 2018-04-13

謝辞

オンラインでインタビューに応えてくださった謝翠翠さん、2019年2月にTTLを訪問した際にインタビューに応えてくださった桃園酒廠の張志成さん、通訳と案内をしていただいた楊凱程(ケニー)さん、一緒にこの酒をテイスティングしてくださった吉田酒造(竹生嶋)蔵元杜氏の吉田肇さん、そして、日本酒テイスティングのワークショップ「ローカル・サケ・キャノンボール 台湾編」に参加いただいた皆さんのおかげでこの記事を書くことができました。ここに感謝の意を表します。

参考文献

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