不老泉・上原酒造の初呑み切り、2回目の参加(2016年)
(2016年7月31日)
昨年(2015年)に引き続き、「不老泉」上原酒造の初呑み切りに参加してきました。
呑み切りとは?
一般に、冬に造った酒はひと夏以上寝かせてから出荷します。その前にその品質をチェックするのが「呑み切り」で、酒造りの大切な工程の一つです。
美しい高島の風景
上原酒造が蔵を構えるのは、滋賀県高島市新旭。京都から1時間ほど新快速に揺られて新旭駅で下車、そこからコミュニティーバスに乗ります。
バスを降りると飛び出し坊やがお出迎え。すでに参加者もちらほらと。
バス停から歩いてすぐ、上原酒造に到着です。
酒林(杉玉)もすっかり熟成しています。素朴でいい形です。
一方、山廃仕込み新酒は出荷に向けて熟成中。今回は27BYの新酒をはじめ、26BYのお酒を利きました。23,24,25BY、古いもの11BYのお酒も呑み切りの対象に含まれていました。
かばたの水
これはこの地区を流れる良質な地下水、かばたの水です。仕込み水に使われます。
👉 1. 酒蔵に湧いている水が原点|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー
不老泉の熟成酒粕を使い蔵元のおばあちゃんが漬けた奈良漬。無念にも買って帰ることができず。
いよいよ呑み切り会場へ
呑み切りはこの奥の建物で行われます。
安定の美しいスリッパの並び。呑み切りに参加する一般人をもてなす心を感じるこの並びは、不老泉の酒造りの丁寧さを連想させます。
👉 2015年の呑み切りの様子(スリッパ写真もあります)
真剣に酒と向き合う
会場にはすでに多くの参加者が集まっていました。皆、配布された酒のリストを真剣にチェックしています。
呑み切りは、もともと蔵の中で行われていた行事。消費者が参加することは珍しいことです。上原酒造が一般参加可能な呑み切りを行っているのは、蔵元の上原さんが「飲み手の声に耳を傾ける」ことを大切にしているからです。
参加する飲み手も、それに応えようと努めます。「酒と真剣に向き合う」そんな空気のなか一つ一つきき酒をしていきます。
じっくりと酒に向き合い、感じたことをメモにとります。とても集中力の要求される作業。54種類を利き終えたあとは、ぐったりと疲労感がやってきました。
2年目の呑み切りに参加して
不老泉を飲みはじめたのは2011年。呑み切りに参加したのは今回が2回目です。今年のお酒は去年に比べ、全般的にきれいで上品に仕上がっていると感じました。
メモを見比べると、2015年では「わら、ミント、杉の葉、チーズ、バター、干し草、糠、乳、ぬか漬け」といった言葉が多かったのに対し、2016年は「炊いた米、白玉粉、柑橘、杏、アプリコット、カシューナッツ、生米、玄米、米飴、わら」といった香り表現が中心でした。
帰りの電車でご一緒した、不老泉を何年も見続けている酒販店の方が言った「今年は横坂杜氏の酒の中に(前任の)山根杜氏の酒が見えてきた」という言葉が印象的でした。
横坂杜氏が語る米と酒造り
54種類のお酒を利き酒した順路のあと、お話をされていたのが杜氏の横坂さん。60kgの米袋を3,4個持ち上げるというたくましい腕。杜氏の熱い話を熱心にお話を聞く飲み手。私もおこぼれに預かりました。
今回の54本のうち5本で使われている米「亀の尾」。飯米であることもあり、酒造りは難しいといいます。「米は無味無臭で明確な味や香りがないが、そこから味と香りを出していくこと、米をどう使いこなすかが大切」と語ります。
亀の尾と向き合う、酵母と向き合う。それはオーナー(蔵元)の思い。味の方向性を決めるのはオーナーだと力説する横坂さん。
酒造りの入り口「米」
酒造りの入り口と出口にこだわるのが蔵元さんのコンセプトだ、と横坂さんは続けます。
入り口は米。上原酒造では原料の米をすべて農家から直接購入してるとのこと。そして、その多くの農家の方は自らトラックで米を蔵に運んできます。横坂さん自身も、千葉県で酒米「総の舞」を育て、トラックを運転して個々に持ってくるそうです。
そして全量自家製米。醸す酒は無添加山廃。これも蔵元さんの示す道です。蔵元さんがしっかりハンドルを握っているからこそ、蔵人は造りたくなる、と横坂さんは語りました。
酒造りの出口「木槽搾り」
酒造りの出口は、醪を搾る工程。自走圧搾式の機械を使わず、木槽を2台使って搾ります。
「一滴一滴。出てきた! 現場の人間がどれだけときめくか。どれだけしびれるか。農家の顔が見える全量自家製米。無添加山廃。やりがいに繋がります」と横坂さん。
このあと実際に木槽を見せていただきました。今の木槽はおそらく明治時代くらいか使っているのではないかとのこと。樫の木、とても硬い木材を使って作られています。
外観、中身も濃い茶色。毎年、造りの1ヶ月前に木槽の外と中に柿渋をぬって季の保存性を上げています。
出口には手を抜かない。2人がかりで酒袋に醪を詰め、3日かけて搾ります。自動圧搾機に比べるとかなり効率は落ちますが、小さい蔵の身の丈にあった造りがこだわりだといいます。
次の酒造りへ向けて
もうすぐ稲刈り。そして3ヶ月もすれば新しい酒造りが始まります。テンションが上っていく横坂さんのお話を聞きながら、呑み切りは酒造りシーズンに向けての心のコンディションを整えるステップであるのかもしれないと思いました。