「不老泉」上原酒造の初呑み切りに行ってきました〈前編〉

「不老泉」上原酒造の初呑み切りに行ってきました〈前編〉

7月26日の日曜日、夏真っ盛りの青空の下、「不老泉」の上原酒造の呑み切りに行ってきました。

「呑み切り」とは?

冬に造った日本酒はタンクで貯蔵、熟成させて秋から出荷します。「呑み切り」とは熟成の途中の段階で品質をチェックする工程です。通常は酒造りに携わる方を中心に行いますが、上原酒造さんは一般の参加者も受け入れています。

とは言っても、蔵開きなどの日本酒イベントと違い、参加者にも呑み切りの目的「品質のチェック」の役割が課されています。消費者の目線で50種類以上のお酒をきき酒し、評価します。上原酒造さんはプロの眼だけではなく、一般消費者の感性も大切だと認識されているのです。

琵琶湖の西、高島にある上原酒造

上原酒造は琵琶湖の西、のどかな平地に位置する歴史ある酒蔵です。最寄り駅のJR湖西線新旭駅を降りると、青い空、おいしい空気。気温は高いものの気分はとても爽やかになりました。空の高さ、心なごむ自然、夏を感じる緑。老後はここに住みたい!と思いました。

到着!すっかり落ち着いた色になった酒林、趣きのある看板。そことなく懐かしさを感じる建物の風情。

ここがあの「不老泉」の上原酒造。

不老泉との出会い

私の不老泉との出会いはそんなに昔ではありません。今年春に飲んだ不老泉青ラベル(雄町というお米を使ったバージョン)のまろやかな香りと力強い味に衝撃を受けました。その後参加した「京都呑ムリエ会」という日本酒イベントで偶然同じテーブルだったのが上原酒造の横坂杜氏。

__「蔵付き酵母は守り神」__と熱く語る横坂さんのお話がずっと私の心のなかに残りました。蔵付き酵母とは、酒蔵の中に自然に存在するお酒を造る酵母のことです。この時、この呑み切りへのお誘いをいただきました。

そして、私に不老泉を教えてくれた京都の飲食店「いなせや」の丸山さんも、この呑み切りに誘ってくれました。

僕は今、導かれてこの地に立っている。

夏の強い日差しの中、僕は酒林の前で立ち止まりながら、ここまでの道のりを頭のなかで再生していました。

仕込み水

建物の中に入ると、湧き水が湧いていました。不老泉の仕込み水です。この水で不老泉が醸されているのです!

蔵の方が「飲んでみてください」と言ってくださり、泉の水をワンカップ型のコップで汲み取り、口に含みます。

「冷たい、柔らかい、美味しい!」

喉を潤し、仕込み水の舌触りやのどごしを記憶し、いよいよきき酒に望みます。

スリッパ

呑み切りが行われる会場は蔵の古い建物の内部。入る前にスリッパに履き替えます。

スリッパの整然とした並び、等間隔に綺麗に並んでいます。ここで僕は不老泉の酒質につながる何かを感じました。

緊張感高まる記帳

中に入るとズラッと並んだ一升びんときき猪口。その数50種類以上。さっそく、住所氏名を記帳してスタンバイです。このスタイルの「記帳」をしたのはいつぶりだろう。

楽しむためだけのイベントではありません。参加したからにはしっかりときき酒をして、どのお酒をどの程度熟成させていつ出荷するか、という杜氏さんの判断に貢献できるような、「消費者の声」をお伝えするのです。

ひたすらきき酒する

ここからはひたすらきき酒です。その数56種類。順番にきいていきます。参加者でごった返す会場、後ろがつかえてしまわないように、数十秒で香りと口当たり、味、後味をとって、メモっていきます。「これは!」と思った好きなお酒には◎をつけたりしながら。

今まで飲んだ不老泉に共通していた、乳製品、それも濃厚なもの、チーズや発酵バターの香り。__「ぽい、ぽい、不老泉っぽい」__という感じのお酒ももちろん多かったのですが、ちょっと違う系統のものもありました。

乳っぽい香りの中にミントのような爽やかな草系の香りがするものだったり、ぬか漬けの香りがするものだったり。もちろん青りんごや和梨のような吟醸香も。こんなに幅広い香りを一日で体験したのははじめてでした。

56種類のお酒のうち約半分はタンクに貯蔵中でまだ製品になっていないもの。つまり、この呑み切りの結果でどの程度熟成させて、いつ出荷するかを見極めるのです。

56種類全部きき酒して、結構疲れました。__嗅覚、味覚、触覚に神経を集中させて、それを言語化するという行為__はとても脳みそを使うのです。明日はきっと脳が筋肉痛です。普段使わない部位をおもいっきり使うのですから。

疲れたけど、楽しかった、美味しかった、ワクワクした、感動した。僕がきき酒が好きなのはこれなのです。生きていて本当に良かったと思う瞬間です。

後編 ▶