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みりんのお屠蘇 2021|みりんテイスティングノート

日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇 日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇

お正月といえばお屠蘇。今年は4種類のみりんにそれぞれ屠蘇散を漬け込んで違いを楽しんだ。甘〜いスパイス飴のようなものから、スパイス感が重層的に広がってコーラやルートビアを思わせるものまで、味わいの幅に驚きながらほっぺを落としたのだ。

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テイスティング

多様な味わいが印象的だったので、テイスティングノートに書き残すことにする。

Azuma Kirin 東麒麟(写真左から1つ目)

まずはライトなものから、ブラジル・サンパウロ州カンピーナスにあるAzuma Kirinのみりん。こちらではみりんのほか清酒、味噌、醤油が醸造されている。日本のみりんとアルコール度数はほぼ同じだが、エキス分はやや少ないのではないかと感じる。あまり熟成が進んでいないせいか、みりん自体の主張は控えめで、スパイスの香りが一つひとつ全面に出てくる。まさにスパイス飴!

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古式造り流山本みりん(写真左から2つ目)

次は千葉県野田市・窪田酒造の流山本みりん。関東のみりんはあまり熟成せずに出荷して、色は少し濃い山吹色くらいの薄さなのだが、さらに3年強自家熟成させたので琥珀色づいている。香りは全体的に落ち着きを感じさせるが、少し辛味がある。スパイスの辛い部分がみりんによって強調されている。台南の市場にいるような感じになる。そんな香りがする。みりんの味わいや熟成具合によって、屠蘇散のスパイスのどれを強調されるかが違うとわかって少し感動する。

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福来純本みりん三年熟成(写真左から3つ目)

続いて岐阜県川辺町にある白扇酒造の福来純本みりん三年熟成。京都の有名料亭で採用されたことから、京都ではよく見かける銘柄だ。時々行くつけ麺やさんでも使われているようだ。こちらもトータル5〜6年の熟成。熟成の割にはややシンプルで、力強い。ボールド。こちらはルートビアみが強い。もちろん炭酸で割って楽しんだ。

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開栓したときのフローラルな香りよりも、力強さが目立つ。でもその強さは若いときから苦味とともに合ったと思う。追熟したのもよいが、出荷時の3年熟成は香りの複雑さと絶妙なバランスがピークに達していた。

有機本格仕込み三州味醂(写真左から4つ目)

最後は愛知県碧南市・角谷文治郎商店の有機本格仕込み三州味醂。パリでも買える。出荷前・後あわせて5年ほどの熟成。香りが豊かで、「ふわっ」と広がるのが感じられる。一口目の印象はオーガニックコーラ。カラメル感もしっかり。検証するために炭酸で割ってみたが、まさにそのとおり! 2日目はスパイスの香りがより重厚になり、少しカレーっぽさとコクを感じた。

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熟成したみりん自体は、開栓当時にあった柑橘のニュアンスがすっかり影を潜め、カラメルみが増していた。

お屠蘇とは

お屠蘇はお正月の祝い酒で、清酒やみりんにいくつかの生薬が入った「屠蘇散」を漬け込んだものだ。2017年に実施された「『和食』保護・継承に関する正月行事および食の実態把握」によると正月のお雑煮とおせち料理は8割以上の人が食べていたのに対し、お屠蘇は全体で2割と、飲む人がそれほど多いわけではない。

屠蘇の起源は中国にあって、2世紀頃に三国時代の名医、華佗によって考案され、9世紀はじめに日本に伝わったとされている。宮中の元旦の行事として屠蘇の服用が行われ、そこから民間に広がった。

屠蘇散の中身

現在市販されている屠蘇散の中身は製造元によって違い、5から10種類の生薬が配合されている。今回使ったものには7種類(桂皮・山椒・陳皮・桔梗・大茴香・丁字・浜防風)が含まれているが、2018年に日本酒コンシェルジュ通信で紹介した屠蘇散には10種類の生薬・スパイスが含まれていた。

谷田(1936)は、屠蘇散の内容として、白朮(びゃくじゅつ)・桔梗・山椒・肉桂・細辛・防風・乾薑・大黄が用いられ、その中で白朮は欠かせないとしている。この構成は現在のものとあまり変わらない。

漬けるのは日本酒かみりんか

今まで目にした何種類かの屠蘇散には「清酒かみりんに浸す」「清酒に浸してお好みでみりんを加える」とのインストラクションがあった。私がみりんのお屠蘇のことを知ったのは最近のことで、それまでは日本酒を使うと思っていた。個人的には、みりんに漬けたほうがスパイス・生薬とみりんの甘味との相性を楽しめてよいと考えているが、どちらが主流なのだろうか?

吉羽(1931)によると、民間に広まる前の宮中の正月行事では、「温酒に浸した」とあり、吉羽は清酒か濁酒だったのではないかと予想している。このほか、1930年代の記述には、「いまでは酒の代わりにみりんを使う人が多くなった」「東京ではみりんだが地方では酒を使うところがある」などがある。このことから、お屠蘇にはもともとは日本酒を使っていて、1930年代より前からみりんを使ったお屠蘇が普及したのではないかと想像される。

お屠蘇はリキュール

はじめて意識してお屠蘇をいただいた時、「シュトーレンっぽい」という印象をもった。欧州の伝統的なお菓子に含まれるスパイスのうち、シナモン・柑橘ピール・クローブが屠蘇散に含まれている。

森國ベーカリーのシュトーレン

お屠蘇はリキュールである。

この発想は1920年代にすでにあって、殘紅(1921)はお屠蘇を西洋人に飲ませてみたい、なぜならお屠蘇は西洋のリキュールを彷彿とさせるからだと言っている。そのなかで、アブサンやシャルトリューズを例に上げている。両者とも薬草系リキュールで、アブサンはニガヨモギやアニス、茴香(屠蘇散とかぶってる!)などを漬け込んだもの、シャルトリューズはアンゼリカ、シナモン(屠蘇散とかぶってる!)、ナツメグをはじめとする130種類のハーブを浸漬させて造られる。

みりんのお屠蘇をいろいろな種類で作ってみたり炭酸で割ったりしていると、カクテルとの可能性を感じた。屠蘇散ビターズのカクテルっておいしそうだとワクワクした。お正月の行事酒としてだけではなく、普段からお屠蘇、そしてみりんを飲んで楽しみたいな!

(追記)みりんカクテルをやってる人がいないわけがない、と思って少し調べたら、『三河みりんで味わうプチマクロ料理 』(西邨 マユミ 著)でストロベリー・ダイキリやアップルソースなどのレシピが紹介されていた。作ってみよう!

参考文献

  • 宇都宮 由佳, *伊尾木 将之, *瀬尾 弘子, 江原 絢子, 大久保 洋子. 「和食」保護・継承に関する正月行事および食の実態把握. 日本調理科学会大会研究発表要旨集. 2017. 29 巻. 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
  • 吉羽 豊洲. 屠蘇の由來. 日本釀造協會雜誌. 1931. 26 巻 1 号
  • 殘紅. 屠蘇の話. 日本釀造協會雜誌. 1921. 16 巻 1 号
  • 毛利 千香, 御影 雅幸. 屠蘇酒の起源に関する考察. 薬史学雑誌. 2015. 50 巻 1 号
  • 西邨 マユミ『三河みりんで味わうプチマクロ料理 』2013年. キラジェンヌ