旅人たちに愛された桑酒を醸す山路酒造|酒蔵訪問
日本酒「北國街道」と桑の葉を漬け込んだリキュール「桑酒」を醸す山路酒造(滋賀県)を訪問しました。
近江の北国街道。中山道の彦根付近から琵琶湖の北東を北上、長浜・木之本を経由して福井県の今庄で北陸道に合流する街道だ。宿場町だったところの一つに山路酒造がある。室町時代(1532年)の創業で、今でも酒を造っている酒蔵の中では4番目に古いとされる。
昭和初期の北国街道と山路酒造の蔵を写した写真が残されている。左手にあるのが、昭和3年に建てられた現在の蔵だ。道の真ん中あたりに水路と柳の並木が見える。旅人たちがここで涼を取っていたのだろう。
旅人たちのエナジードリンク、桑酒
山路酒造といえば桑酒がよく知られている。桑の葉のエキスが入ったリキュールだ。蔵の女将さん、山路祐子さんによると、糖分を多く含む桑酒は甘いものが貴重だった時代に旅人たちのエナジードリンクとして愛飲されたという。このあたりは戦後まで養蚕が盛んで、北国街道の周辺には桑畑が広がっていた。かつては全国で桑酒が造られていたけれども、今ではここ山路酒造のみが醸造しているとのことだ。
桑酒はみりんと桑の葉で造られる。日本酒の仕込みが終わってから、伝統的な製法でみりんを仕込む。桑の葉を漬け込んだ焼酎を加えてさらに1年間熟成させる。
全国に桑酒のファンがいて、お取り寄せする人も多いという。文豪・島崎藤村も山路酒造の桑酒を気に入っており、1925(大正14)年に注文した直筆の手紙が残されている。
桑酒にはしっかりとした甘味(でも本みりんよりは甘さが控えめ)と苦味がある。桑の葉の香りと蜂蜜の香りが心地よい。香りと甘みが主張しすぎずに調和している。ミントと炭酸水を使ったモヒートのように飲むのをおすすめされた。熱めの燗酒にしてもおいしそうだ。
日本酒の銘柄は「北國街道」、地元の人に愛されるブランドだ。この中でとくにしぼりたてはお正月に地元よく売れるそう。滋賀県内で栽培された玉栄などを使って醸されている。地元以外でも例えば東京の滋賀県アンテナショップ「ここ滋賀」などでも北國街道を飲めるので、ぜひ飲んでみてほしい。
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近江名産桑酒のテイスティングノート
2012年6月の浜大津朝市の山路酒造ブースのレポート。桑酒はもちろん、いろいろな日本酒を味わった。山路酒造オリジナルの桑酒モヒートのレシピも掲載。
「本醸造 北國街道」のテイスティングノート(「ここ滋賀」にて)
滋賀県の食文化が楽しめるアンテナショップ「ここ滋賀」
参考文献
- 開発社編. 2017. 文豪と暮らし~彼らが愛した物・食・場所. 創藝社.
- 喜多常夫 2015. 18世紀までに創業した清酒・焼酎蔵元296社の創業年順リストとその分析. 日本醸造協会誌 110巻9号.
- 呉蒙生. 1909. 酒の數々. 釀造協會雜誌 4巻9号.