「Tomitsuru 純米吟醸 夏限定ラベル」「トミツル 特別純米 愛と乳酸モリモリ」「富鶴 純米大吟醸 瑞雲」日本酒テイスティングノート

〈日本酒レビュー〉浜大津こだわり朝市で久しぶりに飲んだ「富鶴」。地酒は地元と世界のためにある、と感じた朝だった。

「Tomitsuru 純米吟醸 夏限定ラベル」「トミツル 特別純米 愛と乳酸モリモリ」「富鶴 純米大吟醸 瑞雲」日本酒テイスティングノート

毎年新しいチャレンジ

2021年5月の浜大津こだわり朝市での2蔵元の酒、前回の「多賀」に続いて今回は「富鶴」である

‌蔵元の中村哲男さんは、「うちの杜氏は毎年新しいチャレンジをしているんです」と繰り返し話した。その一つが写真右の「純米吟醸 夏限定ラベル」、キュートなデザインのラベルに、イタリア語で “Grazie, sole e acqua. (ありがとう、太陽と水)” と書かれている。とても甘い酒だけれど、自然にバランスが取れている。しっとりした和菓子を思わせる。白あんを思わせる甘味とマットな口当たりをを酸味がしっかりと支えている。‌‌

写真真ん中の「愛と乳酸モリモリ」は試飲して思いついたタイトルだそう。こちらもお菓子っぽい。やわらかく甘くて、羽二重餅のようなテクスチャーだ。お酒は口の中にあるのに、心は酒に包まれている。

うちの酒は貯蔵して伸びる酒

写真左の「瑞雲」はタンクで6年間熟成された酒。飲むとグ力強く熟成感が来る。ナッツや米飴の香りが特徴だ。引っかかりがなく、後半の酸味・うま味・甘味のバランスがよい。熱めの燗酒では、表情がキリリとして、コクとうま味があり、特に後半のじわりとくる酸味がよい。「うちの酒は貯蔵して伸びる酒」と蔵元さんは語る。

2018年の初夏、蔵からほど近い愛荘町の「魚与」ではじめて富鶴を飲んだ。あらばしりの生酒だった。春先に搾ってから3ヶ月、すでに「貯蔵して伸びる」を予感させる味わいだった。‌‌

富鶴 あらばしり 生酒|日本酒テイスティングノート
〈日本酒レビュー〉どっしりとした口当たり、透明感と蜜のニュアンスを感じるテクスチャ。熟感がよく、鮒寿司との相性が抜群でした。

同じ日に購入した上撰の一升瓶を少し飲んでみたら、とてもおいしい熟成をしていた。こちらのテイスティングノートもアップしてきたい。

‌‌地元も世界を酔わす酒‌‌

‌‌チャレンジ精神溢れる新しいタイプの酒と大吟醸の重苦清酒を試飲したけれども、どれにも滋賀酒らしい力強さや骨格がある。地元で支持されるのも納得だ。外の市場に向けて別の方向性を目指しているわけでないことに将来性を感じる。いまや地域や歴史に裏打ちされた「個性」によって、嗜好品である酒を選ぶ時代だからだ。

「瑞雲」は女性ワイン専門家が選ぶコンテスト「フェミナリーズ」の日本酒・熟成酒部門で金賞を受賞した(第15回大会・2021年)。海外のコンテストに出品した理由をきくと、「海外でも売りたい」からだと中村さん。アメリカや中国での営業の苦労話も話してくれた。ストーリーをまとって売り込むことは大切だけど、酒そのものに語らせる、言い換えれば酒のおいしさが共通言語になるほうが飲み手が幸せになるし商売もうまくいくのでは、などと考えた。‌‌

「うちの酒は貯蔵すると伸びるんですよ」という中村さんの言葉はずっと心に残った。地元で愛される酒、時を刻み込んで熟成する酒、世界で愛される酒、僕の心が覚えている味わい、帰りの電車の中ではそれらが渾然一体となって、時空間連続体の歪みを感じていた(言い換えると、少し酔っていた)。エコバッグに入った「モリモリ」と「瑞雲」は、ひとりで静かに味わおう。‌

テイスティングノート

Tomitsuru 純米吟醸 夏限定ラベル 20°Cくらい、おちょこで

上立ち香は和菓子、白あん。やわらかで甘味がしっかりとしている。口当たりはマットな感じ。落雁や白あんの味が追いかけてくる。それを酸味がしっかりと支えている。繰り返すけど、和菓子のようなお酒だ。

トミツル 特別純米 愛と乳酸モリモリ 20°Cくらい、おちょこで

やわらかい印象。こちらも「夏限定ラベル」と同じく和菓子のようなお酒。甘くてマットなところに共通点がある。やわらかくやってくる白あんのニュアンスと羽二重餅のような、子どもの耳たぶのようなテクスチャー。包まれる感じがする。

瓶で3年熟成。利き酒してこのタイトルを決めたという。そして、地元の「愛知(えち)」の愛とLoveの愛を掛けているという。名前決める会議とか、楽しそう。

富鶴 純米大吟醸 瑞雲 おちょこで

タンクで6年熟成したという。

力強い熟成酒。「ぐわり」という擬態語を使いたい。20度くらいでは、濃くて、甘味がしっかりしていて、やがて熟成感がやってくる。ナッツや木の皮、米飴。この骨格と風貌はとても滋賀酒らしい。

55℃くらいの燗酒では、きりりとしたシャープな顔を見せる。 コク・うま味・甘味のあと、後半じわりと酸味を味わう。切れもよい

(テイスティング日: 2021年5月16日)

ラベル情報

Tomitsuru 純米吟醸 夏限定ラベル

  • 〈醸造元〉 愛知酒造(滋賀県愛知郡愛荘町)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 -
  • 〈精米歩合〉 60
  • 〈杜氏〉 -
  • 〈特定名称/種別〉 純米吟醸酒
  • 〈アルコール度数〉 15度
  • 〈原材料〉 米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 〈製造年月〉 2021-05

トミツル 特別純米 愛と乳酸モリモリ

  • 〈醸造元〉 愛知酒造(滋賀県愛知郡愛荘町)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 -
  • 〈精米歩合〉 55%
  • 〈杜氏〉 -
  • 〈特定名称/種別〉 特別純米酒
  • 〈アルコール度数〉 16度
  • 〈原材料〉 米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 〈製造年月〉 2021-05
  • 〈その他情報〉 3年熟成 瓶貯蔵

富鶴 純米大吟醸 瑞雲

  • 〈醸造元〉 愛知酒造(滋賀県愛知郡愛荘町)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 -
  • 〈精米歩合〉 50%
  • 〈杜氏〉 -
  • 〈特定名称/種別〉 純米大吟醸酒
  • 〈アルコール度数〉 16度
  • 〈原材料〉 米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 〈製造年月〉 2021-05
  • 〈その他情報〉 6年熟成 タンク貯蔵

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浜大津こだわり朝市 - 日本酒コンシェルジュ通信
浜大津こだわり朝市は、毎月第3日曜日の朝8時から12時に開催されている朝市。滋賀の日本酒、魚、つけもの、餅、米などが盛りだくさん。会場は京阪浜大津駅を出たすぐのところです。