山廃

5. 先代の山根杜氏との一冬|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

5. 先代の山根杜氏との一冬|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

山根杜氏のもとでの酒造り 「無添加山廃」に魅せられた横坂さんは、不老泉で20年以上無添加山廃造りを続けてる山根杜氏のことを知ります。そしていつか山根杜氏のもとで酒造りをしたいと思うようになりました。 そして、2013年に横坂さんは不老泉の上原酒造で働くことになりました。「山根杜氏のもとで蔵付き酵母の無添加山廃造りをしたい」という横坂さんの思いが実を結んだのです。でも、横坂さんが山根杜氏とともに酒造りをできたのはほんの短い期間でした。 横坂: 実は私は山根杜氏とは一冬しかつながりがないんですよ。 山根杜氏が、忘れもしない12月9日の日にですね、こう言ったんです。 「社長も身内も知ってるんだけど、実はね、横坂、今日って日はな、5年前に余命5年と宣告された日なんだ。ということは、明日からはおまけの人生だ。これからは、いつ何が起きても不思議じゃないことだ。だから、お前にはそのことを言っておく」と。 本当に山根杜氏は自分の身を呈して。私はこのあと半年間、酒造りを教わりました。中身の濃い一冬でした。 というか、足りなかったですよ。山根杜氏の一語一句、山根杜氏との一分一秒
日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇
4. 私の酒造りヒストリー、無添加山廃との出会い|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

4. 私の酒造りヒストリー、無添加山廃との出会い|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

酒造りとの出会い 横坂さんは1960年、群馬県吾妻郡中之条町で生まれました。中之条町は新潟県と長野県に接する県境の町、関東平野から標高1000メートル級の山々に迫る位置にあります。 中之条で少年時代を過ごした横坂さんはその後上京し、東京農業大学の醸造学科で学びます。最初から酒造りを目指していたわけではありませんでしたが、酒造りの実習がきっかけで酒造りの世界に魅せられ、酒造業界に進みます。 横坂: 農大の学生だった時に食品特別実習というのがありました。2週間の実習です。講義じゃなくて実際に現場で。優・良・可・不可の評価は現場の人にいただくんですよ。 それで、酒造りの現場を知って、職人さんたちと寝食をともにして、魅了されました。それで「自分の親父が毎晩飲んでいる酒ってどんな人が造っているんだろう」と思うようになったんです。 地元の中之条町のあそこに貴娘酒造というのがあるなと。そこが私が最初に勤めた酒屋です。 ―― そこから横坂さんの酒造り人生は始まったんですね 横坂: そうです! 貴娘酒造で触れた「二刀流の生き方」 横坂さんが最初に入った貴娘酒造の五十
日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇
3. 山廃造りは微生物のバトンタッチから|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

3. 山廃造りは微生物のバトンタッチから|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

前回に引き続き、酒造りでの発酵のスターター「酒母」のお話です。酒母づくりの複雑なメカニズム、偉大な先人の知恵を横坂さんが語ります。 引き続き、酒母室にて 横坂: これが、昨日仕込んだところの酒母です。全部山廃です。うちの場合は無添加です。 ―― 無添加というのはどういうことですか? **横坂:**実は山廃というのは、天然乳酸なんですよ。速醸は既成の乳酸を使うんですけど、生酛・山廃というのは空気中の乳酸菌で乳酸発酵させるものです。 このタンクは開放といって、上が全部開いてますよね。開放ですから、空気中にいる、いろいろなものが中に入り込むわけですよ。 ―― 関係ない菌も入り込むんですね 横坂: そうです。そういった雑菌を淘汰させるというのが乳酸菌なんです。乳酸発酵することによって乳酸が生まれて、つまり酸が生成されるわけですよ。PHが下がってくるわけです。 ほとんどの微生物というのは酸に弱いですから、その中で増殖できるというのは清酒酵母しかないんです。雑菌は活動できないんです。 ちょっと、この甘酸っぱいような香りが、ほんのり感じられるでしょう。これが乳酸
日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇
2. 蔵付き酵母は守り神|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

2. 蔵付き酵母は守り神|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

不老泉・上原酒造の杜氏、横坂さんのインタビュー。前回の水のお話に続き、第2回は上原酒造の一番のオリジナリティーである「無添加山廃造り」とそれを支える「蔵付き酵母」がテーマです。 先代の山根杜氏が始めた「無添加山廃造り」 上原酒造に湧き出る水を見て無添加山廃造りを始めた先代の山根杜氏。それを受け継ぐ横坂さんに、上原酒造の一番のオリジナリティー無添加山廃造りについてお話をお伺いしました。 日本酒は、米と水を原料に、微生物の働きを使い発酵させて造ります。その際、一度に原料を発酵させるのではなく、「酒母」と呼ばれる発酵のスターターをつくることから始めます。仕込むお酒全体の6〜7%の量の酒母で発酵を十分に進めてから、全体の発酵過程に続けるのです。 「無添加山廃造り」とはこの酒母づくりに大きな特徴があります。現代の酒造りでは、ほとんどの場合、アルコールを生成する清酒酵母や、清酒酵母が働きやすい酸性の環境を作るための乳酸を添加します。これを「速醸(そくじょう)」と呼ばれます。 無添加山廃造りでは清酒酵母も乳酸も添加しません。空中に浮遊していたり麹米にもともと付いている微生
日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇
1.  酒蔵に湧いている水が原点|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

1. 酒蔵に湧いている水が原点|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

滋賀県高島市、琵琶湖の西のほとりで不老泉(ふろうせん)をはじめとする日本酒を醸す上原酒造。酒造りシーズンまっただ中の2015年12月末、杜氏の横坂安男さんにお話を伺いました。 上原酒造は「蔵付き酵母」と呼ばれる天然の酵母を使い、山廃造りという高い技術力が要求される方法で日本酒を造っています。不老泉はふくよかな香りとコクのある奥深い味わいが特徴です。 かばたのウェルカムドリンク 酒蔵の入り口には小さなお店があって、不老泉をはじめとするお酒が並んでいます。お店に入って左手には湧き水。柄杓とコップが添えられており、来店するお客さんに振る舞われています。 これはかばたと呼ばれていて、湧き水の豊かなこの地域特有の場所です。飲んだり、野菜を洗うのに使ったり、スイカやビールを冷やすのに使ったり、生活に欠かせない湧き水です。 酒蔵に到着してすぐに横坂さんに案内していただいたのはこの「かばた」です。 ―― 柔らかくて、おいしいですね。 横坂: これが仕込み水、原水ですから。蔵の中で湧いているこれが。 お客さんに足を運んでいただくということは、ここでしか
日本酒コンシェルジュ Umio 江口崇