日本酒の「だし割り」を作りました。ほっぺが落ちました。
日本酒をだし汁で割る「だし割り」を作ってみました。うまい! ほっぺが落ちるおいしさ! うま味の相乗効果を実感しました。
おでん屋で体験した「だし割り」
日本酒をおでんの出汁で割る「だし割り」を赤羽のおでん屋「丸健水産」で体験してから、うま味の明確さとほろ酔いドリフト感の虜になってしまいました。
つくってみた!
日本酒テロワールキャノンボール(現 Local Saké Cannonball ローカル・サケ・キャノンボール)石川県編の復習をしようと集まり、萬歳楽の「甚」をテイスティングしていたところ、
「これ、だし割りにしたらイケるんじゃ?」
という話になり、たまたま冷蔵庫にあった伊吹島のいりこで出汁を引いてみることになりました。
伊吹島のいりこだし
伊吹島のいりこといえば、そのおいしさには定評があり、「いりこ酒」というスタイルが確立されています[1]。
こちらが伊吹島のいりこ。
まず、いりこの頭と内臓を丁寧に取り除きます。頭を取ってから背中から割ると簡単に内臓が外れます。
そしてソースパンに水300ml程度、塩2g程度、いりこ5匹分を投入し、火にかけます。
このソースパン(WMFミニソースパン12cm)は、お味噌汁を1〜2人分作るのに最適の大きさです。ちろりを入れてひとり燗酒をするときにも使っています。
だし割りの完成
ついに、日本酒と出汁が出会います!
先に器に酒を入れ、出汁を注ぎます。丸健水産のだし割りにならい、酒1につき出汁2〜2.5の割合にしました。
爆発的においしくなる
うまい! 全身においしさが染み渡り、多幸感に包まれます。
体を温める程よい温度、うま味の相乗効果でうま味が爆発し、米の香りが出汁の風味と調和します。また、アルコールが出汁の味わいの輪郭を際立たせ、骨格を作り出します。
出汁の塩味も大切、これで甘味・酸味・うま味・苦味・塩味の五味が揃います
思わず「これはやばい!」と叫びあいながら、自然と笑みがこぼれました。
残念な酒をだし割りにするとどうなるか?
味のバランスが崩れてしまった酒も、だし割りにすればなんとかなるのではと試してみました。開封後冷蔵庫に3ヶ月保管したものですが、開栓直後はおいしいお酒でした。
するとおもしろいことに、もとの酒の「バランスが崩れた感じ」がそのままだし割りに反映されました。やや「飲めないこともない」までには上がりましたが、感動するまでには達しませんでした。
ある杜氏さんが「(熟成がうまく行かず)だめになってしまった酒は、風呂に入れるしかない」とおっしゃっていましたが、その意味が少しだけわかりました。
うま味の相乗効果について
うま味成分のグルタミン酸が入った日本酒[2]と、別のうま味成分イノシン酸が入った出汁が混ざることにより、ものすごく強いうま味が出ます。この「うま味の相乗効果」がだし割りの爆発的なおいしさの理由です。
出典: 栗原 堅三『うま味って何だろう(岩波ジュニア新書)』岩波書店、2012年。
このグラフを見ると、グルタミン酸とイノシン酸が単独であるよりも、2つが混ざったほうがより強くうま味を感じることがわかります。
だし割りの萌芽をポルトガル人の記録からみる
うま味の相乗効果が発見されるずっと前から、私たちはそれを知っていました。グルタミン酸の多く含まれた昆布とイノシン酸の多いカツオで引く出汁は、先人がうま味の相乗効果を経験的に知っていたからこそ利用された組み合わせです。
16世紀に日本に滞在した、イエズス会の宣教師ルイス・フロイスの著書、『ヨーロッパ文化と日本文化』におもしろい記述があります。
日本人は木の盃か土器で酒を飲む。汁が入っていた椀を空けて、それで酒を飲むのはごく普通のこと
フロイスは、料理と別のグラスを使うヨーロッパでのワインの飲み方との違いに注目していますが、当時の日本人は少し残った汁と酒が合わさることを楽しんでいたのではないでしょうか。もしかしたら、だし割りも楽しんでいたかもしれません。
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参考資料
- ルイス・フロイス『ヨーロッパ文化と日本文化』岩波書店、1991年。
- 栗原 堅三『うま味って何だろう(岩波ジュニア新書)』岩波書店、2012年。
- 文部科学省「食品成分データベース」
文部科学省の「食品成分データベース」によると、清酒(普通酒)100gに含まれるアミノ酸で一番多いのはグルタミン酸(50mg)です。その後アルギニン(32mg)、アスパラギン酸(29mg)と続きます。アルギニンは苦味、アスパラギン酸はうま味・酸味の呈味物質です。 ↩︎