和漢三才図会に見る江戸時代の酒造りの方法

江戸中期の百科事典『和漢三才図会』に掲載されている当時の日本酒のレシピを紹介します。

和漢三才図会に見る江戸時代の酒造りの方法

江戸中期(1712年)に編纂された『和漢三才図会』という図解百科事典に当時の日本酒の作り方のレシピが掲載されています。玉川のTime Machine開春の寛文の雫など、このレシピを元に作られた酒がいくつかあります。

江戸時代の製法を再現

和漢三才図会

こちらは『和漢三才図会』第105巻「造醸類」にある「酒」の項です。

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『和漢三才図会 下之巻』(巻150「造醸類」. pp.1781-1784)  国立国会図書館デジタルコレクション

上の画像左側にある挿絵は、槽の垂れ口から搾られた酒が出てくる様子。今と変わらぬ様子ですね。

酒造りのレシピ

『和漢三才図会』にある当時の酒造りのレシピはかなり詳細です。

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『和漢三才図会 下之巻』(巻150「造醸類」. pp.1781-1784)  国立国会図書館デジタルコレクション

『和漢三才図会』の内容は漢文で書かれています。現代語訳もあるので漢文が苦手な方はこちらがおすすめ。私も現代語訳に頼りました。

生酛造りの三段仕込み

酒造りのレシピを簡単にまとめると、以下の手順になります。

  1. 酛摺りをして作った「本醅(もとのもろみ)」に「湯婆(ゆたんぽ)」を入れて温度を上げる。酸っぱくなったら、
  2. 「添」蒸米で麹を作り水と混ぜて本醅に加える
  3. 「中分」さらに蒸し米、麹、水を加える
  4. 「大分」さらに蒸し米、麹、水を加える
  5. 3日に1回撹拌しながら35日経ったら搾って出来上がり

今でいうところの生酛造りの三段仕込みですね。酒母では半切桶で20日、桶に入れて7〜8日。醪日数は35日、木灰を使って澱引きする方法も記述されています。

桶が小さかったのか、仕込みが進むたびに桶を分けて行く方法です。このため「中分」、「大分」という名前がついているのでしょう。添のあとに2つの桶に分け、次に仕込んだあとにに4つの桶に分け、それぞれに最後の仕込みをします。

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* この図では、半切桶での酛摺りの工程を省略しています

酒母、仕込みでの分量をまとめました。8石(80斗)分です。

(単位:斗)蒸米米麹
本醅(もとのもろみ)(酒母) 62.47.2
123.612
中分 216.617.6
大分 401215.2
(合計) 7924.652

『和漢三才図会〈18〉』 (東洋文庫) p.197-198 より作成

江戸時代の酒の評価も

『和漢三才図会』の酒の項には、各地の酒についての記述があります。奈良、大阪(伊丹・池田)、加賀、広島の酒の評価が高いです。

和州(やまと)の奈良、摂州(せっつ)の伊丹(いたみ)・池田、賀州(かが)の菊川、備州(びんご)の三原の酒はいずれも醑醇(しょじゅん)(豊穣な美酒)で名高い。京師(きょうと)の酒は良いけれども甜(あま)過ぎて上戸には好まないものが多い。

『和漢三才図会〈18〉』 (東洋文庫) p.199

和漢三才図会をもとに造られた酒

現在、玉川をはじめ、和漢三才図会の記述をもとにした日本酒がいくつか造られています。その中で、日本酒コンシェルジュUmioがテイスティングしたものをご紹介します。

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参考資料

玉川 Time Machine