麹づくり〈伏見帖〉

つぎは麹づくりです。

蒸した米と麹菌というカビの一種を使って日本酒の原料のひとつ米麹をつくります。麹づくりはとても手間のかかる工程です。まる3日間、昼も夜もつきっきりの作業なので、酒蔵に泊まり込みの作業になります。

麹づくりは麹室(こうじむろ)という、温度と湿度が管理できる部屋で行われます。蒸したての米をひろげて、その上に種麹(たねこうじ)とよばれる麹菌の胞子をふりかけます。すると菌糸が米の表面や内部を分解しながら伸びていきます。十分に菌糸が発達したら、米麹の出来上がりです。この過程で麹菌は米のデンプンを糖に分解するので、食べてみるとちょっと甘いです。

米の表面いっぱいに菌糸が伸びた状態の「総破精麹(そうはぜこうじ)」や表面はまばらだけれど米の奥まで菌糸を伸ばしている「突き破精麹(つきはぜこうじ)」など、違ったタイプの米麹を作り分けます。どういう味の酒を造るかによって使い分けます。

デリケートな温度・湿度管理が必要な麹づくり

麹の菌糸がどのように成長するかをコントロールするのは、温度と湿度です。米麹をつくる3日間の間ずっと、米麹の状態を見ながら、温度と湿度を調節します。
蒸した米に種麹をふりかけたあと、全体に行き渡るように撹拌したあと、袋でしっかり包みます。麹室の湿度と室温を上げ、菌糸が生えてくるのを待ちます。
菌糸が生え始めたのを確認し、包みを解いて木製のトレーに分け入れます。こうするのは、温度調節のためです。麹菌が成長し始めると自分自身でも発熱します。

1、2時間ごとに温度と米麹の状態を確認します。温度が高くなり過ぎないよう、トレーの中で山の形のように積み上げて熱がこもりやすくしたり、平たくしたりして空気に触れる面積を増やし冷やしたりといった作業を繰り返します。

こうやって温度を調節しながら、じっと麹菌が成長するのを待ちます。微生物に働いてもらう酒造りの中でも、とくに「待つ」ことが大切な工程です。微生物と対話しながら一つ一つの動作をていねいに積み重ねていく工程です。

麹づくりを見学して感じたのは、蔵人さんたちの真剣さと独特の空気感でした。米を布で包む、種麹をふりかける、麹の山をつくって形を変える、トレーを並べ替える。丁寧な一つひとつの作業は何度見てもぴったり同じ動き。それら一つ一つには伝統と経験と科学に裏打ちされた理由があります。でもその中に体操や弓道を見ているような、ある種の美しさを感じました。


↑ 麹を作る部屋「麹室(こうじむろ)」。「製麹室(せいぎくしつ)」と呼ばれることも

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