世界の中の日本酒が垣間見える「カンパイ! 世界が恋する日本酒」映画レビュー

海外の方や日本酒にちょっと興味を持ったけどまだハマってない人を誘って観に行きたい映画です。いまの日本酒シーンと日本酒の魅力が、主役の方々の言葉、行間からにじみ出ています。彼らの熱意を受け取って日本酒の魅力に触れることができるでしょう。そしてそこからおいしい日本酒を楽しむという体験につながっていくのではないでしょうか。

世界の中の日本酒が垣間見える「カンパイ! 世界が恋する日本酒」映画レビュー

世界の中の日本酒シーン、今の日本酒造りを知りたい方におすすめ

出ました!日本酒映画!小西未来監督の『カンパイ! 世界が恋する日本酒』。マスコミ試写会に参加しました。

7月から全国で上映されるこの映画のレビューを一足先にお届けします。

クラウドファンディングで資金調達

映画『カンパイ!』についてFacebookなどのソーシャルメディアで見かけた方は多いと思います。クラウドファンディングで多くの人々の支援を受けて製作された映画です。

費用のかかる映画製作をクラウドファンディングとソーシャルメディアで行い、成功させるという新しい事例の一つ。これは、表現したい・伝えたい・記録したい、という志を持っているけれどお金がないクリエイターに勇気を与える事例です。夢の具体化の現実的なモデルとなっています。とても評価できる試みだと思いました。

2010年台の日本酒シーンを切り取った記録として貴重な映画

酒造り・米作り・日本酒ジャーナリズム・日本酒イベント・海外で日本酒を飲む人々。いま、2010年代の日本酒シーンが垣間見える、あらゆる場面が描かれています。

杜氏制度の中で育った最後の世代で、新しい酒造りの流れを作りつつある南部美人の久慈さんとハーパーさん。久慈さんが「地元の米と地元の水で酒を造る」と地元の圃場の前で語ることから見えてくる「日本酒造りの地域性への回帰」。ゴントナーさんや久慈さんが海外で日本酒を伝える姿、それを受け取る海外の方々。いまの日本酒シーン、現在進行形で起きていること、変わりつつあることがあますところなく盛り込まれています。

3人の主役

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南部美人の久慈浩介さん(南部美人五代目蔵元)

南部美人の久慈さんの挑戦、東日本大震災の後の取り組み。涙腺が緩みます。この映画の山場です。酒を造ること、生きることについて考えされられます。それにしても久慈さんは聞く人を引き込む話し方をされます。熱い思いを熱いまま伝える方です。

玉川のフィリップ・ハーパーさん(木下酒造・杜氏)

玉川を醸す木下酒造のフィリップ・ハーパーさんは英語教師としてイギリスから来日しました。その後日本酒の魅力に取りつかれ、酒造りの世界に入ります。内に秘めた熱い思いを静かに語るハーパーさんを映画の中で見ることができます。

映画の中ではいろいろな人がハーパーさんの「大和魂」に言及。「日本人より日本人らしい」とされるハーパーさんの生きざまと、レストラン「ノーマ(Noma)」のシェフ、「デンマーク人よりデンマーク人らしい」マケドニア出身のレネさんの姿が重なりました。

冒頭のシーンでボルダリングをするハーパーさんが、ボルダリングと酒造りの共通点は何か?ときかれて、「家で考えているときは楽しそうで、実際やっているときはつらい」と答えていたのが印象的でした。

日本酒伝道師のジョン・ゴントナーさん

日本酒伝道師のジョン・ゴントナーさんも英語教師として来日、その後Japan Timesで日本酒の記事を書いたことがきっかけで日本酒ジャーナリスト、日本酒伝道師になったそうです。

私の学生時代、英語の先生がすすめてくれた吟醸酒についての英文記事があって、今でもクリッピングしているのですが、それを探して読み返したらゴントナーさんの記事でした。「Where taste is a matter of polish」という記事です。

私が日本酒にハマることになったのはそれから10年以上たった後のことでしたが、この映画との出会いで「人生の点と点とをつなぐ」ことができました。

映画の中で紹介されていたゴントナーさんの新しい著書『Sake Confidential』、すぐに買ってしまいました。これから読みます。楽しみです。

映画として感じたこと

日本酒を愛する3人の主役のほか、たくさんの方が語り、たくさんのことが紹介されます。日本酒ファンとしては、盛りだくさんはうれしい! たくさんのことを知れてうれしい!

ただ、映画としてみるとちょっと盛り込み過ぎか? という印象がありました。この映画が一番伝えたい事は何か、見る人の心に残したいたったひとつの強烈なことは何か、が見えづらい構成になっています。引き算があるとよりよい映画になったのかもしれません。

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また、「すきやばし次郎」の店主、小野二郎を描いたデヴィッド・ゲルブ監督の『二郎は鮨の夢を見る』の影響が見られるように感じます。酒造りの、科学的でありながら神秘的な世界、「よりよいものを造りたい」というものづくりの精神、そういったものを、言葉ではなく映像で感じることができたら素晴らしいと思います。今後に期待です。

海外の方、日本酒にまだハマっていない人に見せたい

海外の方や、日本酒にちょっと興味を持ったけどまだハマってない方を誘って観に行きたい映画です。

いまの日本酒シーンと日本酒の魅力が、主役の方々の言葉、行間からにじみ出ています。彼らの熱意を受け取って日本酒の魅力に触れることができるでしょう。そしてそこからおいしい日本酒を楽しむという体験につながっていくのではないでしょうか。

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こちらは、主役の1人、ジョン・ゴントナーさんの著書です。映画でも出てきます。

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