2. 蔵付き酵母は守り神|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

2. 蔵付き酵母は守り神|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー

不老泉・上原酒造の杜氏、横坂さんのインタビュー。前回の水のお話に続き、第2回は上原酒造の一番のオリジナリティーである「無添加山廃造り」とそれを支える「蔵付き酵母」がテーマです。

先代の山根杜氏が始めた「無添加山廃造り」

上原酒造に湧き出る水を見て無添加山廃造りを始めた先代の山根杜氏。それを受け継ぐ横坂さんに、上原酒造の一番のオリジナリティー無添加山廃造りについてお話をお伺いしました。

日本酒は、米と水を原料に、微生物の働きを使い発酵させて造ります。その際、一度に原料を発酵させるのではなく、「酒母」と呼ばれる発酵のスターターをつくることから始めます。仕込むお酒全体の6〜7%の量の酒母で発酵を十分に進めてから、全体の発酵過程に続けるのです。

「無添加山廃造り」とはこの酒母づくりに大きな特徴があります。現代の酒造りでは、ほとんどの場合、アルコールを生成する清酒酵母や、清酒酵母が働きやすい酸性の環境を作るための乳酸を添加します。これを「速醸(そくじょう)」と呼ばれます。

主な酒母づくりの手法

無添加山廃造りでは清酒酵母も乳酸も添加しません。空中に浮遊していたり麹米にもともと付いている微生物を利用するのです。

速醸のように、あらかじめどういう働きをするかがわかっている酵母を添加するのに比べ、無添加山廃造りは酒蔵の中に浮遊している微生物を使うことはリスクが高く、技術力が要求される手法です。

蔵付き酵母は守り神

この、空気中に浮遊していたりして酒蔵に付いている酵母を「蔵付き酵母」や「家付き酵母」といいます。

2015年6月に横坂さんと初めてお会いした時に一番心に残ったのが、横坂さんが熱く語る「蔵付き酵母は守り神様」という言葉でした。私は、このことをもっと知りたくて、このインタビューを企画しました。

大切なものは目に見えない

横坂さんに、いままさに山廃造りが行われている酒母室を見せていただきました。蓋のされていない酒母タンクがずらりと並んでいます。

酒母室を案内する横坂さん

横坂: 酒造りの原理原則は、どうして固体が液体になるのか、どうしてお米という素材にアルコールがないのに、どこでアルコールが生まれるかということです。

日本酒の場合はお米のデンプンをブドウ糖に変えるというの役割が必要です。

あとは、もう一つ最終的な菌というのが、「待ってました!」と、そのブドウ糖を欲しがる菌。それが、酵母

サン=テグジュペリじゃないですけど、「大切なものは目に見えない」。

2種類の、目には見えない大切なものの中でお酒というのは造られているわけです。

目に見えないものが姿となって見えてきている

横坂: 江口さんと会った時に「守り神様」と言った、業界では「家付き酵母」とか「蔵付き酵母」とかいう別名で呼んでますけど。

それがいま、酒母という形で、実際に姿となって見えてきているのが、いまここです。

酵母が「宿る」ということ

横坂: 実際にどんな素性の酵母がいるのか、ということがありますので酒母造りは本当に難しいです。

うちの場合は26年間ずっと、ここに宿る酵母で酒を造っていますから。その土壌を長年、時間をかけて作ってきたというのがあるんですよ。

前に師匠(山根杜氏)がずっと、「無添加で、上原の酵母で山廃造りをしたい」という思いで、一年一年、その土壌を、培地を作ってきたわけです。「今年から山廃造ろう」と言ってすぐにできるものではないんですよ。

だからあとはここで、水とお米と麹、あとは目に見えない大切なものとで酒を造るわけです。

今年もお願いしますよ、上原酵母様」と。だから、守り神ですよね。

でもまあ、お願いしたって来るわけじゃないですよ。それなりの技術があって導く術があるんです。

次回は、酒母造りの詳しいお話と、山廃造りを確立した先人の知恵についてのお話です。

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