酒のラベルがストーリーを語る〈盃のあいだ 31〉
最近の日本酒ラベルがストーリーを語りだしていることについて。
日本酒レビューまとめ記事「裏ラベルのメッセージが素晴らしい日本酒5選」では、造り手のストーリーが語られているお酒を紹介しました。裏ラベルにはアルコール度数など記載義務のある事項に加え、アピールしたい原料米や製法などが書かれています。また、最近では料理との相性や造り手の思いが書かれたラベルをよく見かけるようになりました。
歴史を紐解くと、日本酒のラベルに消費者の権利として「正しく知るべきこと」が書かれるようになったのは1970年代なかばのことでした。製造年月や原材料などの記載義務が決められたほか、「吟醸」と表示する場合の定義も明文化されました。これには消費者運動が大きく寄与しています。
その頃から、きめられた事柄以上のことがラベルに書かれるケースはあったと予想しますが、 目立つようになったのはここ数年のことだと思います。
そんな中、2019年に「日本酒の輸出用標準裏ラベル」のガイドラインが JFOODO (日本食品海外プロモーションセンター)と国税庁から発表されました。海外の消費者が酒を選びやすくすることが目的です。その酒の味わいや相性のよい料理、そして酒蔵と製品の「物語」を裏ラベルに書きましょうという指針です。
素晴らしいガイドラインだと感じました。消費者が酒を選ぶ時に何を考えるかが、よく反映されています。とくに、西洋の食文化に親しんだ人々には、酒と合わせる食事に対する関心がとても高いので、そういったニーズを満たすものになっています。(輸出先の国や地域にある食文化に合わせて、味わいの表現や料理との相性をカスタマイズするのが理想ですが、次のステップとして考えられているのでしょう。)
現在の日本酒ラベルの基準には、食品表示法と国税庁が告示する「清酒の製法品質表示基準」があります。どちらも消費者に製法や品質を「正しく伝える」ための指針です。「日本酒の輸出用標準裏ラベル」はそこから一歩踏み込んだ、「選ぶ楽しさ」を伝えます。だからこそ、国内向けのラベルにガイドラインを適用するべきだと考えます。
ストーリーを語る裏ラベルのお酒がどんどん増えています。けれども、まだまだ旧来の必要条件を満たすだけの表示のものが主流です。ラベルで消費者とコミュニケーションを模索している造り手は多いでしょう。このガイドラインを国内向けにも採用したら、お酒との出会いがもっとうみだされて、造り手も飲み手も幸せになるのではないでしょうか。
❖「盃のあいだ」では、日本酒コンシェルジュが酒について考えたことを書いています。