仕込み〈伏見帖〉

できた酒母を大きなタンクに入れ、さらに蒸米と水、米麹を何度かに分けて追加して、さらに発酵させます。これを「仕込み」といいます。

通常は「三段仕込み」といって、材料を3回に分けて追加します。発酵を安定して進めるためです。1回めの仕込みには「添(そえ)」、2回めには「仲(なか)」、3回めには「留(とめ)」という名前がついています。

1回めと2回めの仕込みの間は1日おやすみします。最初の発酵が安定するには時間がかかるからです。これを「踊(おどり)」といいます。階段の踊場のように、一休みするのです。

もろみを「育てる」

材料を全て入れ終わったら、温度調節をしながら3週間から5週間、発酵させます。発酵で二酸化炭素が発生して、ぷくぷくと泡が出てきます。米が溶けて白いどろどろの液体になります。これを「もろみ」といいます。

仕込みが終わったあとは毎日もろみの状態をチェックします。その時、もろみを少しだけ採取して化学的な分析をしますが、見た目や香り、味でも判断します。

毎朝7時にすべてのタンクのもろみのチェックをする田島さんは、分析には時間がかかるけれども、人間の五感でのチェックは一瞬でできる。発酵の軌道修正をしなくてはいけない時は一刻を争うけれども、分析にかけていると間に合わない時がある、といいます。

蔵人さんや杜氏さんは「もろみを育てる」という表現を使います。つらい作業を積み重ね、微生物を向き合っていると、自分の子供のように思えるのだそうです。

日本酒の発酵のしくみ

お酒を造るということは、最終的にアルコールをつくりだすということです。酒造りの材料の中では酵母がこの働きをします。酵母は糖分を分解してアルコールと二酸化炭素を出します。もろみからぷくぷくと出る泡は酵母が出す二酸化炭素です。

でも、日本酒をつくる米には糖分は含まれていません。そこで、麹の出番です。麹に含まれる酵素は米のデンプンを分解して糖分を作ります。それを酵母が食べるのです。このように、もろみの中では同時に2種類の発酵が進んでいるのです。

このふたつの発酵の加減を調整することで、お酒の味、特に甘みの特徴を変えることができます。麹菌のたくさん働けるようにすれば、甘みがたくさん出ます。また、麹菌が出した糖分を全部酵母がアルコールに変えてしまえば、甘みの少ないお酒ができます。

酵母は、糖分をアルコールに分解するほか、香りの成分を出す働きもします。出したい香りによって酵母を使い分けます。

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