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悦の司 吟醸 生|日本酒テイスティングノート

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

悦の司(よろこびのつかさ)、吟醸生酒。この酒を醸した蔵は、もうありません。醸造元の木村中田酒造は、地元の海水浴客で賑わう景勝地「津田の松原」の浜辺にほど近い場所に蔵を構えていました。

悦の司のラベル
〈出典〉中田敏雄「醸家銘々伝 木村中田酒造」 [1]

創業者の木村茂は大正元年にこの地で酒造業を興します。銘柄の「悦の司」は大正天皇ご即位の大典に際し、その「悦び」を込めて名付けられたといいます。

毎年、多くの酒蔵が廃業を余儀なくされています。とてもさびしいことです。誰も泳いでいない夏の終りの海岸を歩きながら、もう無くなってしまった酒蔵へのセンチメンタルな思いが込み上がってきました。

津田の松原

澱と解脱

吟醸酒の生酒を25年から30年の間、常温で熟成したものです。原料米の情報は失われていますが、この蔵は昭和の終わりから自社で山田錦の栽培をしていました[1:1]。もしかしたらその米を使ったのかもしれないと想像してしまいます。

少し霞がかかったきれいな山吹色。瓶の底には、白い澱が溜まっているのが見えます。

解脱 澱

日本酒は(にごり酒などを除いて)「澱引き」と呼ばれる工程で澱を取り除き、透明な液体として出荷されますが、時が経つとまた澱が出てくることがあります。

日本酒の熟成過程では、一般に最初あまりよくない状態があって、それから少しずつ良い方向に熟成していきます。そして、ピークを迎えると下り坂に入ります。ものピークを見極めることがいわれています。

熟成のピークを迎えることを、酒が「解脱」したと言います[2]。Nirvana Sakeです。澱は、その解脱のサインの一つです。

燗酒がおすすめ

まずは常温でいただきます。白い澱、少しくすんだ山吹色。はちみつ・きのこ・カカオ・カラメルなど複雑な熟成香がバランス重なっています。50度の燗酒にすると、味変! 急に視界が開け、熟した梨果汁のような印象が現れます。こういったお酒は、思い切って温度をぐっと上げるとよいですね。

テイスティングコメント

複雑で豊かな熟成香。はちみつ・メープルシロップ・きのこ・完熟したトロピカルフルーツ、それからスモーキーな香り・木の皮・カカオ・ダージリン・枯れ葉の香り。それらが層をなしてバランスを保っている。

口当たりはしっかり。典型的な生熟成酒である。裏なりの果物のような渋味。熟成感を強く感じるけども、同時に生酒であることの主張が感じられる。通奏低音のように米の香りと味わいが存在している。とても長い余韻には、キャラメル・餅・ダージリン・カカオ・キャロブの香り。

40度前後では、どこかバランスを持ち崩す感があったが、50度に上げると急に視界がひらけた。マットな米のアンダートーンが急にいなくなった。晴れ渡る空には透明感のあるジュース、よく熟した洋梨の果汁を思わせる。高めの温度で燗につけるのがおすすめ。

(テイスティング日: 2019年10月7日)

ラベル情報

悦びの司 吟醸 生

  • 〈醸造元〉 木村中田酒造(香川県さぬき市)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 -
  • 〈精米歩合〉 -%
  • 〈特定名称/種別〉 吟醸酒
  • 〈アルコール度数〉 -度
  • 〈原材料〉 -
  • 〈製造年月〉 -

  1. 中田 敏雄. 醸家銘々伝 木村中田酒造. 日本醸造協会誌. 1990. 85巻8号. ↩︎ ↩︎

  2. 長期熟成酒研究会編. 古酒神話 長期熟成酒の魅力. 1995年10月. ↩︎