「悦凱陣」熟成酒飲み比べ|日本酒レビュー

幸運なことに、偶然立ち寄った高松にある頼酒店の角打ちで熟成悦凱陣の飲み比べに出会ったのです。

「悦凱陣」熟成酒飲み比べ|日本酒レビュー

ちょっとした空き時間に宝物をみつけることがある。旅の途中に時間ができて、それが2時間以内の時はたいていホテルでゆったり過ごすのだが、この日はなぜかやる気が残っていて、というよりも「非怠惰」な気分になって、友達に会うまでの時間をホテルの外を散策して過ごそうと思いついたのだ。

街をを歩いていると、大きな窓のあるレンガ造りの建物が目に入った。それはモダンな感じの角打ちスペースのある酒屋さんだった。吸い込まれるようにドアを開けて中に入る。ずらっと僕の大好きなお酒「悦凱陣」が並んでいるではないか! そして「熟成酒飲み比べ」と書かれた張り紙を見つけると、気を失いそうになった。なんて幸運なんだろう! 旅先でふらりと入った場所ででこのような素晴らしい体験ができるとは。

カウンターに立つ初老の女性は、旅人の僕にとても親切だった。讃岐のこと、悦凱陣を醸す丸尾本店のこと、そして熟成のことを教えてくれた。その語り口からは地元の誇りが感じられた。飲み比べでは4年熟成から17年熟成の酒を楽しんだ。彼女によるとすべて6℃の冷蔵庫で熟成させている。どれもきれいに熟成していて、米を感じる味わいと複雑な熟成香に包まれとても満足した。心も落ち着いた。

パンデミックを通り過ぎて、僕は少しずつ、旅とはどんなものだったかを思い出していた。今まさに体験している、地元の人びとと話して、偶然の出会いを楽しむこと、これが旅の醍醐味なのだと。

テイスティング・メモ

悦凱陣 純米酒 花巻亀の尾 無ろか生

岩手県の花巻で育った亀の尾を使った酒。平成30(2018)醸造年度。飲むととてもライシー! 最初のテクスチャは驚くほど軽く、なめらかでしっかりとした味わいがやってくる。程なくして舌に染みこむようにさっと切れて、酸味と稲穂の香りが余韻にたたずむ。

悦凱陣 純米酒 山廃 無ろか生

赤磐雄町を使って平成18(2006)年に醸された酒。米を感じるしっかりとした香りと複雑な熟成香が元気に共演している。干し椎茸、オーク、蜂蜜、そしてほうじ茶の香り。熟成香の落ち着いた感じと元気な酸味が共存しているののがよい。乾いた感じで切れるけど、丸い蜜のような味わいとと米の存在感が余韻にある。

悦凱陣 純米酒 無ろか生

平成17(2005)年醸造、香川県で栽培されたオオセトが使われている。オオセトは1979年に育成され、その年からずっと香川県で栽培されつづけている酒造用掛け米品種だ。

予想に反して、この17年熟成酒は飲みやすい味わいだった。陰影のバランスがよくとれている。最初、微かではあるが花の香りを感じて、飲むとなめらかな口当たり。そしてすぐに味わいが口の中を広がる。花の蜜や熟した果実の香りが輪郭を作り、ほうじ茶や白米の甘い香りが上品に周りにたたずむ。その終わりははかなくて、気がついたらいなくなっている。別れ際に決して振り返らない女性のように。

ラベル情報

醸造元: 丸尾本店(香川県仲多度郡琴平町)

(写真左から右)

悦凱陣 純米酒 花巻亀の尾 無ろか生

種別: 純米, アルコール度数: 18-19%
原料米: 亀の尾 (70% 精米)
醸造年度: 2017

悦凱陣 純米酒 山廃 無ろか生

種別: 純米, アルコール度数: 18-19%
原料米: 赤磐雄町 (68% 精米)
醸造年度: 2006

悦凱陣 純米酒 無ろか生

種別: 純米, アルコール度数: 17-18%
原料米: オオセト (55% 精米)
醸造年度: 2005

この記事は“Aged Sake Flight of Yorokobi Gaijin | Saké Review”の翻訳です。

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