【書評】小松正衛『徳利と盃』

ポッケに入れて持ち運べる酒器の本。スローに酒と器を楽しみたい方におすすめ。

【書評】小松正衛『徳利と盃』

ポッケに入れて持ち運べる酒器の本。最初の3分の2は酒器の写真が続く。須恵器から魯山人まで、眺めているだけで楽しい。カットガラスの徳利まで載っている。

写真集が終わると、文章が始まる。最初の節は「酒と人生」。いいなあ。酒と器ではなく、人生を語るんだ。その後、日本酒の歴史や産地ごとの器の解説。コンパクトに纏まっていてよい。前提知識なしに楽しめる。

最後の10ページが秀逸である。とくに「よい徳利とは」は声に出して読みたい。清潔で、形が良く、使いやすく、とくとくと酒が流れ出るもの、がよい徳利だという。それから、安いこと、あたりの風物に溶け込む肌合い、よく使い込んでいること。これらがよい徳利の条件として挙げられている。

そのうえで、高いものやすでに評価づけられた名品ばかり追うのをやめて、安価な徳利を骨董屋さんで探し出し、使っているうちに名徳利に育て上げることを推奨している。

45年前に書かれた本だけれども、全く色褪せない。こんな本を書きたいと思った。

酒器に興味があるけれどもあまり詳しく知らないという方、とくにスローに酒と器を楽しみたい方におすすめしたい。