収穫の風景が思い浮かぶ「五穀のにごり酒 おろち乃舌鼓 熟成酒」日本酒テイスティングノート

〈日本酒レビュー〉ヤマタノオロチ伝説にある八塩折酒をイメージして醸されたにごり酒。濃厚な味わいの食事によく合う。

収穫の風景が思い浮かぶ「五穀のにごり酒 おろち乃舌鼓 熟成酒」日本酒テイスティングノート

京都・鞍馬口にあるお店「若水」。酒造好適米をお店の名前にしているというだけでテンアゲする。お酒のセレクションは素晴らしいし、合わせる料理も秀逸だ。何よりも、店主とカウンター越しに交わす会話が楽しい酒場だ。

ヤマタノオロチの酒

米のほかに雑穀を使っているにごり酒。純米酒ならぬ「純雑穀酒」と紹介されることもある。インパクトのあるラベルのこの酒はいつもカウンターにあって、気になっていた酒だ。

商品説明によるとヤマタノオロチ伝説にある八塩折酒をイメージしてつくられた。スサノオノミコトがオロチを酔っ払って戦闘不能にするために飲ませた酒だ。「古代の酒造りでは雑穀が使われたのではないかと想像して五穀を原料に造った」とある。蔵のある雲南市木次町には八口神社があって、その八塩折酒を飲ませたとされる酒壺の一つが祀られている。

主食となる代表的な穀物である五穀を使うことで自然の恵みや収穫を表現していると想像する。日本における穀物の酒―収穫物をアルコールにしたもの―を見ると、原料の米は最も大切で特別な穀物ではあるけれども、その栽培が難しい場所では米以外の麹を使った酒が造られていたし、雑穀で醸す農家のどぶろくもある。だから、五穀を使うアイデアは、収穫に感謝して酒を造るという点からも自然に出てきたのだろう。

しっかりした味の料理と合う、なめらかで骨格のある酒

店主はこの酒を70度に温めて、平盃で飲ませてくれた。ピッタリの温度帯と器だ(僕は「50度くらい」と感じていたのだが、この記事を公開した後、店主より「70度だったんですよ」と教えていただいた)

念のため室温でもテイスティングしたけれど、燗酒では味が引き締まり、まとまった。口当たりはなめらかで、ミルキーさとうま味に、しっかりとした酸味が骨格を作る。穀物の香りがたくさんあって、収穫の場所に居合わせたような気持ちになる。

豚肩ロースの塊肉と卵黄の紹興酒漬けによく合った。安心するペアリングだ。

テイスティングノート

室温、平盃で

乳酸系の香り、新しいぬか床、ややそやし水を思わせる重い味のチーズの香り。口に含むとなめらかで、後半キュッとコクが盛り上がるのが特徴的。麹や米を感じる甘味がある。

70度、平盃で

こちらが店主おすすめの温度帯。この温度だと、とても「まとまっている」と感じる。味が引き締まっている。しっかりとした酸味にやわらかい米とミルキーな香り、その上に玄米を思わせる穀物の香り。口に含んだ瞬間にたくさんの香りを感じる。凝縮されたうま味とミルキーな滑らかさ。ポン菓子のような軽やかな穀物感に強い苦味が伴い、その苦味でキュッと切れる。乳っぽい余韻がやさしさをもたらす。

ペアリング

豚肩ロースの塊肉と合わせた。この濁酒が包み込む。そして脂身と酸味がよく合う。豚の脂身が大好きなのでうれしい組み合わせだ。卵黄の紹興酒漬けとはうま味の相乗効果のせいか、味の幅が文字通りぐわっと広がる。

(テイスティング日: 2021年2月18日)

ラベル情報

五穀のにごり酒 おろち乃舌鼓 熟成酒

  • 〈醸造元〉 木次酒造(島根県雲南市)
  • 〈仕込み水〉 -
  • 〈原料米〉 五百万石(47%)・コシヒカリ(47%)・雑穀(6%)
  • 〈精米歩合〉 70%
  • 〈杜氏〉 -
  • 〈特定名称/種別〉 その他の醸造酒
  • 〈アルコール度数〉 19-20度
  • 〈原材料〉 米(島根県産)・米麹(島根県産米)・稗・粟・黍・麦
  • 〈酒造年度〉 H18BY
  • 〈製造年月〉 2019-03
  • 〈その他情報〉 五穀入りにごり酒の熟成酒、日本酒度+10〜+11

参考資料