5. 日本酒を低温で熟成させる|にしむら酒店 西村道隆さん インタビュー
にしむら酒店にある低温貯蔵庫。マイナス2度からマイナス7度位の温度で酵素の働きを止めた状態で長期熟成をしています。低温貯蔵を始めたきっかけと熟成酒の魅力を聞きました。
日本酒を「熟成」させること
にしむら酒店は、知る人ぞ知る「低温熟成酒」に早くから取り組んでいる酒屋さんです。酵素の働きが止まるマイナス5度前後の冷凍庫で、長期にわたって日本酒を保存しています。そうやって熟成されたお酒は感動の美味しさだそうです。
— 日本酒を低温で熟成させるのをはじめたきっかけは?
いまから20年くらい前、黒龍酒造さんとの取引が始まった時、今の社長の水野さんがうちに来て、冷蔵庫の温度を見て、手でみて。
「ちゃんと出来てるんかい。本当にうちの商品冷やせてるんかい」という感じで言われて。
「西村さん、僕のところは雫酒とかをマイナス7度で保存してるんです。その理由は、生酒では酵素が働いてどんどん変化している。酵素が動けなる温度はマイナス2度。そこから極端に動けなくなる。さらにマイナス4.5度にすると突然酵素がまったく動けなくなる。死んではいないけど、活動できなくなる。だからあえて、うちはマイナス7度位を主体にして冷凍庫に保存していくんや」
それを聞いて、「それやったら僕も冷凍庫にしたろ」と思ったのが最初です。そうすれば、生酒が年中売れる。うちの冷凍庫はマイナス5度とかマイナス7度だから、よそとはぜんぜん違うんですよ、ということを商品価値にしていこうとしたのが最初です。
— 何年くらいかけて熟成させているのですか?
15年くらい前から、冷凍庫を作った時から置いてあるのもあります。何度か10年物を出してきて飲んでますけど、一番温度が高いところでマイナス2度くらいにしてます。マイナス5度とかマイナス7度にすると、熟成しないんです。だから面白くない。そこら辺をみながらやってます。
— 熟成した日本酒はどんな味がするのですか?
開けてすぐは全然美味しくないです。どういうことかというと、10年間ずっとおいてあるということは、ゆっくり酸化熟成しているので、多分酸素がなくなってます。だから瓶を開けると「シュー」っといって、外の空気を吸う音がします。
そうやって、飲んで、「あれ?」と思うんですけど、空気が回って2〜3時間して、温度を10度位にして飲んだら、「なんておいしいんだろう」と感動します。
舌触りの緻密さと柔らかさ、キメの細かさが、熟成する前とぜんぜん違います。「これが熟成というのか!」という感じで。しかも老ね(ひね)がない。質の悪い紹興酒とかにあるようなきな臭い穀物が傷んだような香りがない。そういう香りがあるものもあるけど、逆に心地よい程度の、プラスに感じさせる香りがあります。
わずかにあるそういう香りが、逆にそのお酒が本来持っている味を増すような、全体が緻密な味になるか、まろやかさが増して、いやじゃない深みがすごく出てる気がします。それが熟成酒、低温熟成酒です。
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(2015年5月公開)