9. 家族が支えてくれた「二刀流」の生き方|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー
前回までのインタビューの内容は12月の末に行われたものです。気温が下がり、山廃の酒母をつくりはじめる時期でした。その後、3月に入って再び横坂さんにお話をお伺いしました。
甑倒し(こしきだおし)という、米を蒸す作業を終える儀式を終え、あとは仕込んだお酒を搾るだけ、という酒造りのシーズンも終わりに近づいた時期でした。
場所は分析室。酒母や醪の状態を分析したり、酒造りを始める前に図面を書く(酒質設計や醸造計画を策定する)部屋です。
壁には先代の山根杜氏の写真がかけられています。横坂さんは酒造りを始める前と終えた後、ここで山根杜氏と向き合うといいます。
分析室は、横坂さんが酒と向き合い、人と向き合う場所です。酒造りも終わりに差し掛かったこの時期に横坂さんが話してくれたことは、酒造り人生とそれを支えた家族の存在でした。
「二刀流」の生き方
夏は米を作り、冬は酒を造る。酒造業界に入った時この「二刀流」の生き方に魅了され、今はそれを実践している横坂さん。家族に支えられて、酒造りを続けることができたと横坂さんは語ります。
横坂: 酒造りは本当に面白い仕事だと思ってます。ただ、四六時中寝食して、33年間。独身の時も、結婚した後も。家族で正月を迎えたことは一度もないですよ。
―― 寂しくないですか?
横坂: でも、家族がいるんですよ。家を守る人がいる。「安心して!目の前の酒造りに集中して!」と言ってくれる家族がいるんです。どんだけ元気づけられるか。
だから頑張れるんです。でも家族は耐えているんです。家族に「酒造りはつらい」なんか言えないですよ。だって家で待ってる家族の方がつらいですもん。
でも、そういうのは俺だけでいいと思っているんですよ。そんなことは俺たちの時代でいいんで。でも、技術は真似をさせたい。伝承していってもらいたい。