7. 酒も造るけど人も作る|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー
横坂さんが杜氏制度の中で身を持って学んだこと、職人としての生き方とは何か、酒造りの楽しさ、を語っていただきました。
酒も造るけど人も作る
山根杜氏を受け継ぎ、伝えていく。そう決心した横坂さんの職人としての生き方の根底には、杜氏制度の中で体験した「酒も造るけど人も作る」という生き方があります。
横坂: さきほど、杜氏さんから暖簾分けした弟子たちがその杜氏さんが亡くなった時にお墓を建てた、って話をしましたよね。
当然どの世界でも人を育てるという思いはあるけれども、あとは自分自身の力で、酒造りに向き合った時の行動次第なんだけども。
でも、ちゃんとそういう形で、弟子たちを旅立たせることができた人、それをもって師匠だと。人の上に立って、酒も造るけども人も作る。
私はその時代の中で生きてきた人間なんで、そういう素晴らしい方を見てるんで。
だから、その気持ちは忘れずに蔵人たちと向き合いたいなと。人を作ってやっと今、自分がやっている仕事というのが成立するんだなと。
大切なものは何か?
横坂: 大切なものは目に見えない。その大切なものというのがわかって、それに魅力を感じる人間。それを体で感じる人間。
―― それを感じる人と感じない人がいるのではないでしょうか?
横坂: 大切なもの、肝心なものというものが、自分にとって何なのかがわかる瞬間があります。それは要するに、ハートの問題です。
それがわかるのは、自分が作った結果の中からです。目に見えないものの奥の深さというか、そういったものを感じるのは結果の中です。
![話す横坂さん
職人の真実は行動
―― それは、どうやったらわかるんですか?
横坂: やはり自分自身で物事を見るということ。そうすると、自分が向き合っているものの中で大切なもの、肝心なものというのがわかる。どうやってわかるかというと、教えてもらうんじゃなくて、まず自分で考える。
それから、あとは環境がありますね。教えてくれるという環境。昔の職人の方は「盗め」って言って、そういう環境の中で、親方は「よくついてきたなあ」と。「次のステップにそろそろお前も行ってもいいかな」と言える。要するに仕事を任せる。
すべて、真実は行動です。職人の真実は行動です。
「職人は口数が少ない」って、当たり前の話ですよ。だって真実は行動ですもん。例えば出汁の引き方なんていうのは、その手際、実際の出汁。一目瞭然じゃないですか。そして下ごしらえできなかったら、次の段階にはすすめないじゃないですか。
頭でっかちでなくて、全ては行動ですから、職人の世界というのは。
ささらの使い方は音だけでわかりますから。その音だったらば、悪いけど、次の上には進めねえなと。
―― よくしていくにはどうしたらいいのですか?
横坂: こなすしかないです。
それから、常に自分と向き合っているかということ。あとは教える環境です。まず自分で考えて、聞く。
杜氏は5年でなれます。あとはその向きあった人間の思いです。一つ一つのパーツパーツで本気で向き合ったならば、5年でなれますよ。5年と言っても酒造りは半年ですからね。
わかっただけでなくて、それをどう結びつけてどうするか。後は、それをどういう形でこなすか。それってどこの現場でも同じだと思うんですよ。
酒造りに大切なことは感性
―― 誰でも5年頑張れば習得できますか?
横坂: 申し訳ないけど、できません。習得はできません。
行動を起こすためには、「知る」ってことがないと怖いんです。だから徹底的に知ることです。知るってことはミスがないことです。ミスが許されないところを、知るまでの状態を作った5年間だったらば、後は、そこから先の酒造りは感性。
徹底的にやったらば、一緒に感性も磨かれます。その思いで行ったらば磨かれます。
気になる、好きになる、楽しむ
横坂: 仕事を覚える時って言うのは、覚えることにだけ一生懸命になって、それが気になるか気にならないかということなんですよ。
気になるところまで自分が知って、好きになって楽しむところまで行ったら、どんどんどんどん雪だるまみたいに、楽しんでしまったらば、もっと知りたくなるんですよ。
だって、学びに来てるんだもん。
何を願いたいかというと、自分の好きな酒造りを学びたいということですよ。自分の好きな酒。
まず来てほしい人間って、「不老泉の酒が好き」。その次が「だからその好きな酒の造り方を知りたい!」ですよ。
来たねー!造り方が知りたい、と!
俺も、造り方が知りたくて千葉から来たんだよ。一緒にやろう!
あとは、どこまで造り方を知りたいのか。造り方の限度なんてないんですよ。
原点は、その造り方を知りたい。俺も知りてえんだよ!とことん追求しようや!その覚悟で来い!と。