1. 酒蔵に湧いている水が原点|不老泉 上原酒造杜氏・横坂安男さんインタビュー
滋賀県高島市、琵琶湖の西のほとりで不老泉(ふろうせん)をはじめとする日本酒を醸す上原酒造。酒造りシーズンまっただ中の2015年12月末、杜氏の横坂安男さんにお話を伺いました。
上原酒造は「蔵付き酵母」と呼ばれる天然の酵母を使い、山廃造りという高い技術力が要求される方法で日本酒を造っています。不老泉はふくよかな香りとコクのある奥深い味わいが特徴です。
かばたのウェルカムドリンク
酒蔵の入り口には小さなお店があって、不老泉をはじめとするお酒が並んでいます。お店に入って左手には湧き水。柄杓とコップが添えられており、来店するお客さんに振る舞われています。
これはかばたと呼ばれていて、湧き水の豊かなこの地域特有の場所です。飲んだり、野菜を洗うのに使ったり、スイカやビールを冷やすのに使ったり、生活に欠かせない湧き水です。
酒蔵に到着してすぐに横坂さんに案内していただいたのはこの「かばた」です。
―― 柔らかくて、おいしいですね。
横坂: これが仕込み水、原水ですから。蔵の中で湧いているこれが。
お客さんに足を運んでいただくということは、ここでしか飲めないこの仕込み水をウェルカムドリンクで味わっていただいて、「この水からうちのすべての作品が生まれていますよ」ということを味わっていただきたい。
お酒って、水とお米だけ、たった2種類で出来ていますから。その大半、8割が水。
いかにして身近に感じてもらえるか。その決め手というのは水ですから。
ここに来た瞬間に「ああ、これが仕込み水か!」と感じてもらいたい。これがすべて、うちの酒造りの原点。私どもはこの水があったからお酒を造ろうと思ったんです。水なくしてお酒はできませんから。
水を見出した蔵元の力とそれを引き出す職人の力
水は酒造りの原点。そしてこの水の力を見いだし、酒を造ろうと決めた蔵元(酒蔵のオーナー)の明確なビジョンがあってこその酒造りだと横坂さんは語ります。
横坂: この水を見出したのは蔵元の力なんです。あとはその力を、そのポテンシャルをどう引き出すかというのが私ども蔵人(酒造りの職人)の力です。
いちばん不老泉の酒を知っているのは蔵元です。酒蔵の下に湧いているこの水で「最高の酒を作りたい」というのを一番願ってますし。
この水には山廃が合う
不老泉の一番の特徴は「山廃造り」。大変な手間がかかる上に高い技術力が必要な方法です。この山廃造りをを始めようと提案したのは先代の杜氏、山根弘さんでした。
それまでは上原酒造では山廃造りは行ってませんでした。滋賀県内でも山廃造りをしていた酒蔵はほとんどありませんでした。
横坂: 先代の山根杜氏の時代に、蔵元がこの水を感じたらば、「杜氏、この水とどう向き合ってどういう酒を造るか」と問うたんです。
そしたらば、「ここには山廃が合う」と。
次回は、先代の山根杜氏が始めた「無添加山廃造り」と「蔵付き酵母」のお話です