9. 未来|酒造家 藤岡美樹さん インタビュー

9. 未来|酒造家 藤岡美樹さん インタビュー

かわつる、かわる

— 「かわつる14」のラベルは他のものと比べてずいぶん違った印象ですね

これはみなさん、「かわつる」じゃなくて「かわる」って読める、っていうんですけど、川鶴がこれから変わっていくよ、とこっそり入れています。

— 右に余白が多くあるのは?

「未来」なんですかね。

— 日本酒の未来?

やっぱり日本酒ってすごい技術だって思うんです。こんなに精巧な技術ってなかなか無いな、って思うんです。伝統的な麹造りだったり、いろいろな高度な技術に支えられていて。

日本ってそういう発酵食品での複雑な味わいとか料理が全部ありますから、その中の一つ、お酒ということで続けていきたいな、って思いますね。

飲み続けていってもらえるように、手にとってもらえるように、造りつづけられるように。そこをやっぱりやっていきたいと思ってますね。それには、でも、なかなか経験が足りない、技術が足りない、時間が足りない。

川鶴の未来、日本酒業界の未来

いまのうちの杜氏はもう70歳近いですから、近いうちに自分たちで造っていかなければならなくなりますので、そこも見据えていかなければならないと。

うちは休みがなくて朝も早いっていう醸造スタイルをとっているんですけど、いま社会に出てきてる子たちって、土曜日がお休みで週休2日をずっとやってきているので、そういう人たちでも酒造りができるような。まあ、週休2日はちょっと無理なんですけど。

酒造をやりたいなって思った人が、ハードルなく入ってこれるような仕事の体系を組んでいきたいですし。だけどいいものを造らなきゃいけないので、そこの働き方とか仕事の仕方とか。

そういうことも含めて、日本酒をこれから作り続けていくための新しいことをうちもやっていかなきゃいけないなと思ってますね。

— なぜ今までの醸造スタイルを変えていくのですか?

やっぱり、今みたいに毎日休みなしでやっていると、だんだん疲れが溜まってきて、臨機応変な軌道修正みたいなのがしづらくなってくるんですよね。

それでも、同じものを毎日造るのでよかった頃はよかったんですけど、今やっぱり、臨機応変にいろんなことをやらなきゃいけない。

お米も、気候が温暖化になってきて、昔とは同じお米でも質が変わってきているところもありますから、それを毎年の気候に合わせて見極めてやっていかなければならない。

より、ものを見て、神経を使って、やっていかなきゃいけないんです。そういうことを考えられる余裕が必要。交代でお休みするとか、半日だけでも家に帰るとか。そうやってリフレッシュしながら楽しんで酒造をやれる環境を作っていきたいなと。もう、やってらっしゃる所も多いですけど、うちはまだ出来ていないので、そこをしていきたいなと。

当然、いい酒を造っていくんですよ。それと相反するんですけど、両方していかないと、造り続けられない。

若い人も入ってこられるようにして、酒造というものを引き継いでいかないといけないですから。そのためには変わらないといけませんから。それも含めて、あと1年2年で変わっていきたいなと思っています。

インタビューを終えて

藤岡さんにお会いするのは今回で3回目。最初は家族で観音寺にある川鶴酒造さんを訪問した時のことで、近所の美味しいうどん屋さんに連れて行ってくださったり、有名な「寛永通宝」の砂絵に案内してくださったりしました。

そこから見える伊吹島を見ながら、伊吹島のいりこがいかに美味しいかをあつく語ってくださったのを覚えています。

2回目は2015年冬の蔵開き、ちょうど藤岡さんが「かわつる14」を仕込んでいる時でした。今思うと、つきっきりで仕込み作業をしていた時期にもかかわらず、合間を縫って蔵開きでお客さんと話されていたのです。

真剣に酒造りに取り組み、お客さんとも丁寧に対話する。藤岡さんの酒造りに対する姿勢が感じられるエピソードです。

藤岡さんはとても謙虚で穏やかで、そしてさりげない気遣いをされる方でした。話し方も穏やかで、とても落ち着いた気持ちでお話をお伺いすることが出来ました。

そのやさしいイメージとは裏腹に、藤岡さんの人生は挑戦の日々です。びっくりするような冒険と地道な努力が入り組んだ職業人生です。

藤岡さんは、最初は純粋に日本酒の美味しさに感動して酒造りを目指しましたが、2社目の酒蔵が倒産したことで日本酒業界全体の生き残りを考えるようになり、そして今、川鶴酒造で日本酒の未来を真剣に考えています。

階段を登るように、世界を俯瞰でみるようになり、常に真剣に考え、そして実践する。藤岡さんの目には、山を登った人にしか見えない風景が見えているのです。

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  7. 怖くて仕方がなかった
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  9. 未来