4. ほの苺|酒造家 藤岡美樹さん インタビュー
いちごの日本酒、「ほの苺」
藤岡さんが川鶴酒造に入って最初に手がけたお酒は「ほの苺」日本酒といちごを使ったリキュールでした。
「ほの苺」は予想に反して大ヒット、四季を通して4種類のフルーツを使ったリキュールへとシリーズ化されました。— その後は何をされました?
春にちょうどいちごのお酒の試験製造の話があったので、それをやりました。冬からは蔵の造りの手伝いをさせてもらいながら、入って1年後の2月にはじめて、「ほの苺」というリキュールを出しました。
それが思いのほか、おかげさまで爆発的に売れました。1000本くらい詰めたら余るくらいかな、と思っていたんですけど、蓋を開けてみたら発売から3ヶ月で7000本くらい売れたんですね。
こういう商品で皆さんが反応してくださるというのがわかって、せっかくだから香川の地元のとれたての果物を使って、四季を通して楽しめるものにしようということで、夏の桃、秋のぶどう、冬のみかんとシリーズ化しました。
— シリーズの人気はどうでした?
おかげさまで、全部人気があったですね。お客さんのほうから「ほのシリーズ」って言ってくださって、結構買っていただいていました。
毎年蔵開きが2月にあんるんですけど、このシリーズを出す前はだいたい4〜500人くらいの方に参加して頂いて、そのうちほとんどが男性だったんですけど、出したあとはそれが1,400人くらいに増えて、半分くらいは女性、しかも私たちよりも若い夫婦とかカップルだったんです。
女性が来られるとリキュールが売れて、ご主人は日本酒を買われる、という感じで両方の売上が増えました。
そういうふうにしたかったので、うれししかったです。
— 「そういうふう」とは?
今までは王道の日本酒だけを造っていたら、そしてそれが美味しければ、お客さんが飲んでくれる、と思っていたんですよ。
でもそうではなくて、こちらから歩み寄って、日本酒の「入り口」になるような商品を飲んでいただく。そして慣れてきたらより本格的な商品、より日本酒に近寄ってきてもらえるような、そういう商品づくりをした上で、日本酒を飲んでくれる人が増えてくれたらいいなと思っています。
日本酒を飲んでもらう「入り口」をつくる
— リキュールから入って、そこから本格的な日本酒に行くものなんでしょうか?
リキュールであっても、やっぱり日本酒ベースだったり、日本酒の技術を使うというところを外さないですし。決して日本酒がだめだからリキュールを造るわけではないんです。
造り手が本当に日本酒が美味しいと思っているし、客さんに手にとってもらいたいからこそ、日本酒のDNAを持った商品を世に出していく、知ってもらいたい、というのが川鶴酒造の方向性です。私もそう思っています。
— その「入り口」に入ってきてもらうためには、日本酒のテイストやニュアンスを感じられる必要がありますね
そうです。なので、いちごににごり酒を合わせているのですね。当時はにごっている酒というのは日本酒だけでした。だから、にごり酒を入れることで、「この商品に入っているのは日本酒ですよ」ということを明確にしたかったのです。
ほの苺を出した時に一番驚いたのが、__「いちご味の日本酒おいしい!」__ってお客さんに言われたことなんですよ。
いちごの味が付いていて、味わいの想像がしやすくて、なおかつ日本酒が入っているものを飲めた、というのは
__「自分は日本酒を飲めるんだ」__という経験になるんですよね。
そうやって「日本酒が飲めたーっ!」ってなって、次に日本酒を飲む機会があったら、「ちょっと飲んでみようかな」って思ってくれたらラッキー。
そういうふうな形で、近寄りやすかったり、手に取りやすかったりする、日本酒を使ったものを出していくことがいいんだな、と思いました。