半農半酒の生き様が込められた酒「不老泉 山廃仕込 純米吟醸 総の舞 火入酒」日本酒テイスティングノート
〈日本酒レビュー〉2つの地域性と杜氏の生き様が込められた酒。
2つの地域性が込められた酒
不老泉・上原酒造の横坂杜氏が自ら栽培した酒米を使って醸したこの山廃純米吟醸には、2つの地域が込められている。ひとつは酒米「総の舞」が育った千葉県安食の気候と風土、農家の横坂さんが生きる土地だ。もう一つは滋賀県太田の水、寒さ、そして上原酒造に住む微生物たちだ。
上原酒造が醸す酒の9割が酵母無添加か分離された蔵付き酵母「上原酵母」を使ったものだ。だから、山廃酒母を造るときの寒さといった気候だけでなく蔵に住んでいる硝酸還元菌や乳酸菌、酵母が地域を色濃く反映している。その意味で、この酒には2つの濃い(この酒の味と同じくらい濃い)地域性が込められているのだ。
半農半酒の生き様が込められた酒
横坂杜氏は酒の造り手としてキャリアをスタートさせたが、杜氏になってから米作りを学び、自分の米を作るようになった。季節杜氏に酒造りを学んだ最後の世代の横坂さんは、米を作り酒を造る師匠たちの生き様に強く感銘を受けたという。そして自分も同じ生き方をしたいと思うようになり、実現させた。この酒には、横坂杜氏と彼の師匠たちの「生き様」も込められている。
不老泉らしい、芯があってメリハリのある味わい
飲む。不老泉らしい酒、との第一印象。濃さがあって、酸味と苦味でよく切れる。濃さは地味な柑橘ときれいな米を思わせる重みのある味わいだ。常温より少し低い温度帯(冷蔵庫から出してしばらく置いた)では、熟した果実の蜜を思わせる、幅のある味わいを楽しんだ。
体温に近い温度帯では、さらりとした口当たりに米の印象が見え隠れしながらも、濃さと切れは健在だ。この温度をおすすめしたい。もう少し温めると、酸味が際立ち、にぎやかな印象になる。さらに温度を上げると米の顔がもっと見えてくる。
※ YouTubeでこの酒のテイスティングをライブ配信した様子がアーカイブで閲覧できるので、ぜひご覧ください。ライブ・テイスティングは毎週火曜日のよる8時から開催しています。
テイスティングノート
15度位 少し深めの平盃と清酒グラスで
しっかりとした味わいで、酸味があってよく切れる。不老泉らしい味わいだ。きれいに熟した果実の蜜のよう。落ち着いたナシの蜜の香り。透明感もあり、きれいな熟成感と相まって、ブランデーのようなニュアンスも感じられる。余韻にも味の濃さが思われて、よい。
平盃では、ライトで熟したフルーツの印象、口の小さい清酒グラスではやわらかさとやさしさ。後半に米を感じる。
◎ 35度くらい、平盃で
さらりとしていて、フルーツ感がある。上品な米粉の印象も見え隠れする。酸味と苦味がしっかりとしていて、よい切れをもたらす。柑橘を思わせる苦味だ。
◯ 42度くらい、平盃で
にぎやかになった! 酸味が際立ってくる。柑橘果汁、地味なやオレンジやはっさくを思わせる。食べたことはないけど、品種改良されていない和の柑橘はこんな印象なのかなと思う。
50度くらい、平盃で
やわらかく、後半はピリピリとスパイシー。余韻に米のコク。ぬる燗のときの白い米とは違う、米全体の力を感じる総合的な米のコクがある。
(テイスティング日: 2021年10月12日)
ラベル情報
不老泉 山廃仕込 純米吟醸 総の舞 火入酒
- 〈醸造元〉 上原酒造(滋賀県高島市)
- 〈仕込み水〉 -
- 〈原料米〉 滋賀県産 山田錦 6%(酒母)・千葉県産 総の舞 94%(もろみ)
- 〈精米歩合〉 60%
- 〈杜氏〉 横坂安男
- 〈特定名称/種別〉 純米吟醸酒
- 〈アルコール度数〉 17度
- 〈原材料〉 米(国産)、米こうじ(国産米)
- 〈酒造年度〉 30BY
- 〈製造年月〉 03-05
- 〈その他情報〉 総の舞は横坂杜氏が栽培したものです。酵母無添加