しぼりたての日本酒を味わおう!
通常、日本酒は搾ってから味を落ち着かせるために時間を置きますが、搾ってすぐのフレッシュな味わいを楽しむこともあります。
酒造りシーズンにしか飲めない「しぼりたて」
「しぼりたて」の日本酒とは、10月から4月頃にかけての酒造りのシーズンにだけ飲めるお酒です。
「しぼりたて」とは文字通り日本酒を搾ってからすぐの状態のこと。酒造りの最後の工程が「搾り(上槽)」。文字通り搾ってからすぐに出荷するので「しぼりたて」と呼ばれます。
新酒?しぼりたて?
日本酒業界では、7月から翌年6月までの期間を醸造年度としています。醸造年度内に搾られ出荷された日本酒が「新酒」と呼ばれます。
醸造年度はBY(Brewery Year)と表記されることが多いです。例えば「27BY」とは平成27醸造年度に造られたお酒のことです。
「しぼりたて」の日本酒も新酒と同じく醸造年度内に出荷されるものですが、厳密なルールはありません。搾ってから短期間のうちに出荷され、フレッシュさや若々しさをアピールするときによく使われる呼び方です。
ひやおろし
醸造年度内に出荷される新酒に対して、一夏熟成させてから秋以降に出荷される日本酒が「ひやおろし」です。「秋あがり」とも呼ばれます。かつてはこのように熟成させてから出荷するのが一般的でした。
搾り(上槽)の工程
次に、「搾り」の工程を見ていきましょう。
米と水がどろどろになって発酵している状態のものを「醪(もろみ)」といいます。これを濾して、透き通った液体と酒粕に分ける工程が「搾り(上槽)」です。
搾りは酒造りのほぼ最後の大切な工程です。
搾り(上槽)のタイミング
醪をいつ「搾る」かは、仕込んだ時に大体の日程を計画しますが、最終的には杜氏さんが醪の状態を確認して搾る日を決めます。醪の発酵の進み具合を見ながら、一番いいタイミングを見極めるのです。
1日早くても、1日遅くても、発酵の状態は大きく変わります。醪の状態を毎日チェックし、どのように発酵が進むかの予測を立てながら、杜氏さんの技術と経験で判断するのです。
搾りの風景
いよいよ搾りの日です。
普段は蒸米、麹、酒母などそれぞれ担当がありますが、搾りの時は蔵人さん全員が一緒に作業します。
普段は笑顔の杜氏さん・蔵人さんたちですが、搾りの時は真剣な表情。蔵の中は緊張感に満ちた張り詰めた空気。
数週間にわたって醪を育ててきて「ここで酒造りの結果が出る」という高揚感と同時に「ここで失敗したら今までの苦労が全て水の泡になる」という緊張感の中で搾る。杜氏さんは搾りの日の精神をこう語ります。
全て手作業の「袋しぼり」
これからご紹介するのは、「袋吊り」と呼ばれる、全て手作業の搾り方です。醪を「酒袋」という袋の中に入れタンクの中に吊るして、落ちてくるお酒を集める方法です。
醪が入った酒袋をタンクの中にこのように吊るします。普通は機械を使って醪に圧力をかけて絞りますが、袋吊りの場合、醪自身の重さだけで濾します。しずくが一滴一滴落ちてくるのを集めます。
斗瓶(とびん)で濾されたお酒を受ける
お酒のしずくは、「斗瓶(とびん)」と呼ばれる瓶で受けます。1斗とは10升のこと。1つの斗瓶に一升瓶10本分、つまり18リットルのお酒が入ります。
酒袋で醪が濾されるうちに、どんどん布の目が詰まってくるので、出てくるお酒の特徴も変わっていきます。最初のほうの斗瓶ではお酒は少し濁っており、後の方では透明感が増してきます。また、最初の方では炭酸ガスが強く感じられます。(「ガス感」といいます。)
「搾り」の工程を見学し、現場の空気感を感じた後にいただいたしぼりたてのお酒のおいしさは格別でした。
機械で搾る方法
袋吊りで酒を搾るのには大変な労力が必要です。ほとんどの場合、アコーディオンのような形をした「ヤブタ」と呼ばれる機械で醪を搾ります。
薮田産業株式会社が製造する「薮田式ろ過圧搾機」が正式名称で、日本酒業界では圧倒的なシェアを誇っています。実はわたしはヤブタ以外の日本酒を搾る機械をまだ見たことがありません。
なぜ手作業で搾るのか?
効率的に搾る機械があるのに、なぜ袋吊りなど大変な手間をかけて手作業で搾るのでしょうか?
袋吊りの特徴は、搾るときに圧力をかけないので、お酒に雑味が出にくいという点にありります。
より雑味の少ない「きれいな」お酒を追求するためには、手間をかけても手絞りをする価値があるのです。
しぼりたてのお酒の味わいの特徴
しぼりたての日本酒は、荒々しく若々しい味わいが特徴です。また、炭酸ガスが少し残っているので、ピリピリとした感じや爽やかさが感じられます。
ひやおろしなど、少し寝かせて熟成させて日本酒は、味わい、特に甘味が丸くなり、落ち着いた感じが出てきます。
しぼりたての日本酒、寝かせた日本酒、それぞれに楽しめる味わいがあります。料理やシチュエーションによって飲み分けたり、飲み比べてみたりして楽しんではいかがでしょうか?
協力・写真提供: 株式会社北川本家