【書評】徐航明 『中華料理進化論』

餃子・ラーメンをはじめとする、いわゆる「中華料理」がなぜ、そしてどのように中国から日本に伝播し、さらに世界に伝播しているのかを書いた本です。

【書評】徐航明 『中華料理進化論』

餃子・ラーメンをはじめとする、いわゆる「中華料理」がなぜ、そしてどのように中国から日本に伝播し、さらに世界に伝播しているのかを書いた本です。

特筆すべきことは、中華料理の伝播と逆伝播をモデル化している点。シンプルな図で表現されています。このシンプルさの奥に、著者の調査と思考が積み重ねられているのです。図をかけるということは考えがまとまっているということです。日常考えるいろいろなことを図にしてみることを私も心がけたいと思いました。

伝播・逆伝播・新伝播

P.38にあるこの図はシンプルです。例えばラーメンが中国から日本に伝播し日本独自の料理となっり、それがまた中国に伝播(逆伝播)、さらに中国でも変容したものが日本に伝播(新伝播)するのです。

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同じページにあるこの図では、さらに対象を広げ、第三者をも含みます。つまり、米国やヨーロッパのラーメンブームをも説明できるモデルです。

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「中国料理」と「中華料理」ではイメージするものが違います。私たちはこの伝播の結果を認識しています。このモデルに接することで、例えば世界で愛されるラーメン[1]や餃子など食生活を俯瞰することができるでしょう。

世界のSakéの伝播

なぜ日本酒のメディアでこの本のレビューを書いているのかというと、このモデルが世界のSakéのこれからに適用できると考えたからです。

P.35のこの図では、どのように中国料理が日本で伝播したかが示されています。いま世界で醸造されているSakéで考えると、【受容期】まず日本の日本酒を忠実に再現、【変容期】創意工夫で現地化が進み、そして【定着期】普及し定番化する、となるでしょう。

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例を挙げると、Namiを醸すメキシコの酒蔵 Sakecul では、初期のバッチは職人たちが研修した日本の酒のような味わいでしたが、2年経って酒質は変容し、現地の料理との相性もよくなっていました。「変容期」に来ていると言えるでしょう。「現地化」は「地域性を込めること」になると考えています。その味わいが定着したあとの日本への「逆伝播」が、実は私がいちばん楽しみにしていることです。

レシピつき!

この本を読んで、いいなと思ったことがまだあります。それは、中国家庭料理のレシピが付いていることです。

そのひとつ、トマトと卵を使った「西紅柿炒鶏蛋」は私の好物です。限られた中華料理店でしか食べることはできませんが、とてもシンプルで味わい深い料理なのです。著者も「日本人のほぼ100%が好き!であろうという味」なのに日本の中華料理店であまり見かけないのは不思議だ(p.174)と書いています。

この本のレシピを参考に作ってみました。「卵とトマトは別々に炒める」というシンプルでひとつのコツが明記されていたのがポイント高いです。

西紅柿炒鶏蛋

大成功! トマトと卵がきれいな色のバランスになりました。卵のやさしい味わいとトマトの酸味が織りなすハーモニー。そしてあとからトマトのうま味が立ち上がってきます。ちょっとアレンジしたのは、砂糖の代わりにあまり熟成してないみりんを使ったこと。鶏ガラスープで味付けしたけど、かわりに合わせだしを使ったら京都中華っぽい味わいになるかもしれません。

京都の中華もおすすめ!

京都で独自に発展した「京都中華」というジャンルがあります。私も週1で楽しんでいます。そのストーリーとお店のガイドが充実した本です。


  1. 日本のラーメンの受容と世界のラーメン事情については、David Chang主演のドキュメンタリー "The Mind of a Chef" のシーズン1・エピソード1 "Noodle" がおすすめです。Netflixで観られます。 ↩︎