醍醐のしずく|日本酒テイスティングノート
〈日本酒レビュー〉ヨーグルト・チーズ・グレープフルーツの香りと強い酸味の爽やかなお酒。飲むと健康になる気がする。
風景が見える酒と出会う
寺田本家の「醍醐のしずく」。今年(2019年)の蔵開きでこちらの発泡バージョンを飲んだのが最初です。寺田本家の酒を本格的に意識して飲んだのはむすひ。その後香取と来て「醍醐のしずく」と出会ったのです。
爽やかさと、原始の風景が目に浮かぶ発酵香が印象的です。これはもう日本酒の概念を超えた健康飲料。飲んだ次の日は、なんとなく体が軽くなったような気分になります。
菩提酛
この酒の製法は、室町時代初期に書かれたとされる『御酒之日記』にあります。この頃は僧房酒と呼ばれる寺院で造られる酒が高い評価を得ていました。菩提山正暦寺の「菩提泉」や天野山金剛寺の「天野酒」はとくに良質であったとの記録が残っています。
荘園を所有していた寺院は米が入手しやすかったので営利目的で酒を造っていました。また、寺院は大学のような機能を持ち、知識が集まる場所でした。その結果、中国からの最新技術に触れたりして酒造技術が発展したのです。
醍醐のしずくの背景にある当時の蔵元の思い
寺田本家では『御酒之日記』にあった僧房酒「菩提泉」のレシピをもとに2002年から試作を始め、2003年に商品化されました。
当時の蔵元、寺田啓佐さんの著書『発酵道』には、「醍醐のしずく」について14ページにわたる記述があります。醍醐のしずくの開発秘話から、菩提酛を使った「どぶろく」のレシピ(醍醐のしずくと似た酒、と書かれています)。
背景には、寺田さんが語るこの言葉があります。
添加物だらけの酒なんか飲むのをやめて、自分で作ったどぶろくを飲んだほうがぜったい体にいい
寺田さんは酒屋でありながら、質のよい発酵食品としてどぶろくをとらえ、家庭での醸造を解禁すべきだと主張しています。重い病気に苦しみ、発酵食品で健康を取り戻した寺田さんだからこそ語れる、深みのある言葉です。
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テイスティング・コメント
15度前後
濁った薄い黄色。「日本酒」にはあまり見られない、自然を感じさせる外観。
上立ち香は吸水した白米・ヨーグルト・チーズ(パルミジャーノ)の香り。そやし水の香りが顕著。
口に含むと強い酸味に支配される。その後、やわらかくやさしい甘味。微発泡もあって、結果的に爽やかさが広がる。スイスイ飲める。飲んだ時の香りはヨーグルト・ホエーの香り。そしてふきなどの野菜のうま味。
余韻は長く、少し収斂味が残るが心地よい。酸味の強さが柑橘果汁やお酢のようで、体によさそうな酸味。健康になった気分。残り香に醤油もろみやパルミジャーノ。
開栓11日目(冷蔵)
強い酸を感じさせる香りと、軽快で引っかかりがないぬか漬けの香りが上立ち香に。酸味は「爽やか」のレベルを少し超えて「強烈」になった。ゆず果汁を熟成させた感じ。後口はさらに複雑になり、わら・グレープフルーツピール、ほのかにカッテージチーズ・ウオッシュタイプでコクのあるチーズの香り。
40度の燗酒
香りがミルキーになり、甘味が上がった。甘味と酸味のバランスが取れてきたが、酸味の性質は依然としてシャープ。低い温度よりはさらりとしているが、まだ少し蜜っぽいとろりとしたテクスチャー。酸味がマスキングされて穏やかになった分、とろり感が増しているのかもしれない。
後半、酸味と収斂味がきゅっときてコクのように感じる。後口のグレープフルーツピールとぬか漬けの香りがよく広がる。
55度の燗酒
脱脂粉乳のような上立ち香。全体的にホットレモンのような印象だが、特有の酸味と上品なぬか漬けの香りが、グレープフルーツの皮の白い部分のようなニュアンスを載せながら、酸味とともに口の中に広がる。少しミルキーな感じも。残り香はすこしもたつく感じ。グレープフルーツよりもぬか漬けが支配的。
燗冷ましで55度から45度へ
「むすひ」で感じた、寺田本家らしい香りが出てきた。チーズの香りも強く、自然栽培の柑橘を思わせる酸味と収斂味。派手ではなく、穏やかだけど酸っぱい酸味。品種改良が進む前の、あまり甘くないハッサクやグレープフルーツのそれ。収斂味とぬか漬け臭は主張するが、不快ではない。アクセントとして機能する。
冷やすか少し温めるのがおすすめ
55度まで上げると輪郭がよりくっきりするが、刺々しくなる。冷やしていただくか40度くらいがおすすめ。肉体や精神が疲労した時に、40度で飲むと回復しそう(個人の感想です)。
(テイスティング日: 2019年7月18日)
ラベル情報
- 醍醐のしずく
- 〈醸造元〉 寺田本家(千葉県香取郡神崎町)
- 〈仕込み水〉 -
- 〈原料米〉 コシヒカリなど(無農薬米)
- 〈精米歩合〉 90%
- 〈酵母〉 酵母無添加
- 〈特定名称/種別〉 -
- 〈アルコール度数〉 14.5度
- 〈原材料〉 米(国産)、米麹(国産米)
- 〈製造年月〉 2018-10