「美田根」を醸す酒米五百万石の田植え
滋賀県長浜市の田根地区で酒米の田植え体験に参加してきました。田植えの後のバーベキューでは、地域の方々や酒蔵の方々と地域や酒造りのお話で盛り上がりました。
滋賀県長浜市田根地区
滋賀県。琵琶湖の北西部に位置する長浜市の14の集落からなる田根地区で酒米「五百万石」の田植え体験に参加してきました。北川本家の日本酒「美田根」が醸されるお米です。
田植えの後のバーベキューでは、田根地区の地域の方々や酒蔵の方々と地域や酒造りのお話で盛り上がりました。
田植え体験
さっそく田植えです。参加したのは地域の方々や「美田根」を醸す北川本家の方々、学生の方々。
植えるのは酒米「五百万石」。山田錦についで生産量の高い、代表的な酒米です。
苗を植える位置決め
これは苗を植える位置に印をつける器具。糸を張って位置を決めるなど地方によってさまざまな方法がありますが、田根地区では昔からこの器具を使っているそうです。
グリッド状に印がつけられた水田です。線が交わる位置に苗を2本づつ植えていきます。
農家の方に教えていただいたのは、苗を2本とり、指の第2関節くらいの深さに植えるという方法でした。2本では心もとないと感じましたが、このあと分蘖(ぶんけつ)して苗が枝分かれし、増えていくそうです。
参加人数が多かったこともあって、30分程度で植え終わりました。あっという間です。
この苗が育ち、4000本の日本酒になる
「美田根」の酒米を育てる水田はこの他に2枚、全部で7反あります。およそ40俵の五百万石が収穫され、4000本の「美田根」が造られるのです。
田植え焼け
帽子以外の日焼け対策をせずに臨んだ日本酒コンシェルジュ。ふくらはぎがこんがり焼け、このあとヒリヒリと痛い日が続きました。いわゆる「田植え焼け」です。2年前の香川県観音寺市にある川鶴酒造での山田錦田植えから学習していません。
乾杯、そしてバーベキュー
田植え作業の後は、水田近くの西池の辺りに移動してバーベーキューを楽しみました。
「美田根」を醸す北川本家の蔵元北川幸宏さんの音頭で乾杯!
バーベキューは地元の食材で
地元で採れた野菜や、鹿肉などのジビエを中心に焼いていきます。鹿肉のビール漬けや鶏肉のヨーグルト漬けが人気でした。漬け込むのは当日だそうです。
スーパー石焼き芋マシーン
バーベキュー会場で存在感を示していたのがこの石焼き芋マシーン。オリジナルで開発したものだそうです。ほくほくのさつまいも、じゃがいも。どちらも甘くておいしい焼き上がりでした。
手前の青い部分が石焼き部分。ガスを使っていますが、おいしく石焼きができるように炎と石の間に秘密の工夫が施されているそうです。奥の銀色のボックスとはパイプで連結されています。ここに余剰の熱気を送り、焼きあがった芋を保温します。
日本酒「美田根」
「美田根」は「田根酒プロジェクト」で2013年に生まれた日本酒です。米を育て、酒を醸すのは今年で5年目になります。
田根地区地域づくり協議会代表理事の川西章則さんに、日本酒「美田根」ができたきっかけをお話していただきました。この協議会は長浜市で最初に作られた地域自治組織で、他の地域のお手本になった先進的な協議会です。
11年前に設立された協議会は早くから大学とのつながりをもち、学生を受け入れてきました。田根地区で国内外の大学が地域づくりのワークショップを開催しながら、地域住民との関わりを紡いでいきました。
そんな中、地域の住民、地域外の学生・社会人との協働事業の一つとして「田根酒プロジェクト」が生まれたのです。
「美田根」を醸す京都・伏見の北川本家の皆さん
ここで収穫された五百万石を使って日本酒を造るのは京都・伏見の北川本家。蔵人さんたちも地域の方々や学生の方々と交流していました。
「美田根」はやわらかい口当たり、アプリコットのようなフルーティな香りが華やかで甘味がきれいなお酒です。
この時飲んだのは昨年収穫した五百万石で醸したもの。夏の気候の影響で、田根の五百万石だけでなく、全国的に酒米は固く溶けにくかった(糖化しにくかった)そうです。しかし、その後の発酵はよく進んだそうです。
毎年同じスペックで醸される「美田根」。今年はとくにおいしく造ることができたとのことです。
ラベルに込められた思い
ラベルのデザイン、味の方向性、美田根という名前は「田根酒プロジェクト」で地域住民と大学生が参加するワークショップで決められました。ラベルは「美しい田根」、「日本の原風景」を表現しています。
地域の米で造り、地域で売る酒
「美田根」は主に地域の酒販店や道の駅などで販売されています。田根地区で育った米で造られ、田根地区を中心に消費される「地域の酒」です。
しかし、もともとこの地域にはより安価な日本酒を飲む人々が多く、「美田根は価格が高い」という声も多かったといいます。川西さんは「これは田根の酒だ、地域の酒だ」という誇りを持って薦めることをこつこつと重ねました。
地域の課題解決から生まれた田根シカバーガー
そして、こちらは鹿肉をつかったハンバーガー「田根シカバーガー」。ジューシーな鹿肉ハンバーグとおいしいバンズとの間にはオレンジ・マーマレード。絶品でした。
典型的な中山間の過疎地域である田根地区では、少子高齢化や獣害など、解決すべき課題を抱えています。
「田根シカバーガー」は、そのうち獣害の解決を目指す過程で生まれました。田根地区の地域活性化に取り組む団体SoHubと田根地区・地域づくり協議会が開催したワークショップ「2014年地域を盛り上げるbentoWS」で派生してできたアイデアがベースになっています。
地元で食育活動に取り組むキッチン・エスとSoHubで商品開発、田根地区・地域づくり協議会とともに地域ぐるみで販売をしています。
これから生き残る地域
はじめて田根地区の方々と交流して「村の外と交わり、物事を進めていく、これが過疎の村の生きる道ではないか」と思いました。
歴史を振り返ると、かつて世界の栄えた都市では異文化との接触がその要となりました。一度は寂れたものの、地元とアートという異なる社会的背景を持つグループがともに歩むことで活性化に成功した地域もあります。
田根地区は典型的な中山間の過疎地区です。しかし、地域づくり協議会が発足してから間もなく、都市の大学、海外の大学との交流が始まっています。異なるバックグラウンドを持つ集団と積極的に接触してきたことになります。
外に開かれているか、異なるバックグラウンドを持つ人々と交流・協業ができるか。これが過疎に悩む地域の活性化への重要なポイントになるかもしれないと感じました。
(2017年5月5日)
もっと知りたい
参考文献
- 「地域が変わる 地域活性化の現場 長浜市田根地区地域づくり協議会」『かけはし』2016年11月号、しがぎん経済文化センター
- 藤井誠一郎、加藤洋平、大空正弘「「住民自治組織」の実践と今後の展望 ― 滋賀県長浜市の「地域づくり協議会」を事例として ―」『自治総研通巻406号 2012年8月号』