「アートと日本酒が融合する賞をつくる」NIIZAWA Prize by ARTLOGUE 鈴木大輔さんインタビュー 前編

日本酒とアートのコラボレーションをさせた賞「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」をプロデュースする鈴木大輔さんにお話をお伺いしました。

「アートと日本酒が融合する賞をつくる」NIIZAWA Prize by ARTLOGUE 鈴木大輔さんインタビュー 前編

日本酒とそれを支える文化に関わる方にお話を聞く、日本酒インタビュー。今回は、日本酒とアートのコラボレーションをさせた賞「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」をプロデュースする鈴木大輔さんにお話をお伺いしました。

鈴木さんはARTLOGUE(一般社団法人 WORLD ART DIALOGUE)のCEOで「アートを利活用し、よりよい社会の実現を目指すアートイノベーター」として幅広く活動されています。

最高級の日本酒と現代アートが融合する

「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」には、2つの賞があります。一つは世界トップレベルのアーティストに与えられる「大賞」、もう一つは新進気鋭のアーティストに与えられる「兆し賞」。

それぞれのアーティストの作品は宮城県の新澤醸造店が醸す日本酒、「NIIZAWA」と「NIIZAWA KIZASHI」のラベルに採用されます。

「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」が目指すのは、現代アーティストを顕彰し、同時に日本の伝統文化の結晶である日本酒の価値を世界に広げていくことです。

「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」
「NIIZAWA Prize by ARTLOGUE」受賞作

出会いでアイデアが生まれた

シャトー・ムートン・ロートシルト

__—— 鈴木さん、このプロジェクトを始められたきっかけはなんですか?

鈴木:
きっかけは、シャトー・ムートン・ロートシルト[1]というワインの存在を知ったことです。

👉 シャトー・ムートン・ロートシルト - Wikipedia

👉 シャトー・ムートン・ロートシルトのエチケット(ラベル)- flickr

シャトー・ムートン・ロートシルトのエチケット

2008年に六本木ヒルズにある森アーツセンターギャラリーでワインラベルの展覧会(「ムートン・ロスシルド ワインラベル原画展」)があったんですね。そこでシャトー・ムートン・ロートシルトの存在を知ったんです。

これおもしろいな! やってみたいな!」と思いました。

日本酒の古酒

鈴木:
もう一つは、同じくらいの時期なんですが、古酒の存在を知ったことです。

大阪の阿波座に島田酒店という酒屋さんがあって、お店の地下で試飲をさせてくれるんです。

そこで色々話を聞いているうちに、古酒を飲ませてもらったら、すごくおいしかった。それまでは「日本酒はできたてを飲むものだ」というイメージだったのが覆されました。

熟成古酒ルネッサンス2017
琥珀色の古酒(写真はイメージです。本文とは直接関係ありません)

なんだ、日本酒ってコレクションできるんだ!

「なら、日本酒でシャトー・ムートン・ロートシルトみたいなものが作れるじゃないか」という漠然とした思いつきが頭に浮かんだわけです。

漠然とした思いが現実に

鈴木さんはこの漠然とした思いを企画にしたため、日本酒業界にアプローチしますが、実現することはありませんでした。

しかし、ある出会いがきっかけで、プロジェクトは実現に向けて大きく進むことになります。

新澤醸造店の新澤社長との出会い

2014年に大阪で開催された、「中田英寿が見つける日本展」。さまざまなアーティストの作品が展示されました。

この展覧会で中田さんを取材した鈴木さんは、その時ゲストだった新澤醸造店の新澤社長と出会います。

鈴木:
登壇されていた新澤さんのお話の中で「残響」というお酒のことを知りました。9%まで精米した日本酒です。

新澤醸造店の酒蔵は東日本大震災で全壊判定を受けていました。その復活の意味を込めて「残響」をつくったという物語がありました。「これはおもしろいな!」と思いました。

そして、アートとコレボレーションさせる限りは最高の日本酒と組み合わせたい、という思いもありましたし。

それで、この講演が終わったあと、この展覧会で開設されていた日本酒バー「N Bar」で、新澤さんに「企画があります」と話しました。

そうしたら「面白そうなので話を聞かせてください」と言ってくださいました。後日企画を説明したら「ぜひやりましょう!」ということになりました。

始動したプロジェクト

ラベルの展覧会と古酒の試飲という出会いでアイデアが生まれ、もう一つの出会いで孵化したこのプロジェクト。鈴木さんはこの企画を最高のものとするためにさまざまな戦略を練りました。

てっぺんを目指しましょう!

—— 鈴木さんが出会った「残響」はどういうお酒ですか?

鈴木:
残響が造られた頃は、一万円を超える日本酒はほとんどなかったそうです。

残響を出したら「そんなものは誰が買うんだ?」などと業界内で言われていたらしいです。

でも、蓋を開けてみたら大人気でした。世界中のトップクラスのホテルで使われたり、グラミー賞の受賞パーティーで使われたり、芸能人のラグジュアリーな結婚式で使われたり。毎年売り切れるようになっていたそうです。

だから新澤さんは残響については自信を持っていました。

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鈴木:
ただ、そのうち他のメーカーも真似をするようになって来ました。どんどん2万円、3万円の日本酒が出てきました。

それで僕は「新澤さん、ドンペリピンクの値段に合わせましょう!」と話をしたら、新澤さんは「一緒にやるんだったら、てっぺん目指しましょう!」とおっしゃって。

それで、このプロジェクトのために残響の上位バージョンを造ることになりました。

アーティストが名誉に思う賞をつくる

最高級の日本酒「残響」のさらに上をいく日本酒を造ることが決まり、プロジェクトは大きく前進します。鈴木さんには最高級の日本酒にふさわしいラベルを誰にどのように描いてもらうかの戦略がありました。

—— どのようなアーティストにラベルを描いてもらうかは、どうやって決めたのですか?

鈴木:
同時にアートの方をどうやったら最高のものにできるかを考えました。

そして、そのためにはどのようにそのアーティストを選べばよいのかを考えました。

やはり、トップクラスで活躍するアーティストにお願いしたい。そのために、これを一つの賞、アーティストの顕彰制度にできないかと考えました。

毎年、NIIZAWA Prizeを誰が獲るのだろうかとみんなが楽しみにするような、そして選ばれたアーティストが名誉に思う賞にしたいと。

後編では、鈴木さんがなぜアートの世界に入ったのか、そこからなぜ日本酒とのコラボレーションに繋がったのかについてお話いただきます。


  1. フランスにあるシャトー・ムートン・ロートシルトは、1950年代から毎年、ラベルデザインを著名な芸術家に依頼しています。過去70年間でシャガールやピカソ、ウォーホール、キース・ヘリングなどがラベルを描き、世界中のコレクターの収集対象となっています。 ↩︎