テイスティングは一瞬で〈盃のあいだ nº12〉
今日は、テイスティングにかける時間はどのくらいがよいのか、について考えます。
今日は、テイスティングにかける時間はどのくらいがよいのか、について考えます。
今取り組んでいる日本酒の地域性を探るワークショップ「日本酒テロワールキャノンボール」では、テイスティングの時間を一回あたり3分と決めています。とくに根拠はありませんが、ちょっと足りないくらいの程よい長さです。
時には「もっとゆっくり時間をかけてテイスティングしたいなぁ」と思うことがあります。一口、二口、三口と何度も飲みながらコメントをひねり出します。
不思議なことに、こうやって書いたコメントよりも、3分で書いたものの方が、光っているのです。
それはなぜか? うまくできた、うまく言葉にできたテイスティングを思い出してみると、味や香りをつかむのは一瞬です。3分のうちほとんどの時間を言語化するのに使っていることに気がつきました。
上立ち香を感じ、口に含んでテクスチャーや味わいをとり、鼻に抜ける香りをとらえ、のどごしと余韻を感じる。うまくいったと思うときは、この一連の流れがひとつの情景のように記憶されます。その情景の全体を言語化したり、ある部分、たとえば香りに文字通りフォーカスして記述したりして、テイスティングコメントができあがります。その情景、その非言語的なものを伝わる言葉に翻訳するのです。
しかし、より本質的なのはその情景を捉える一瞬です。
一瞬で味と香りの情景を捉えられたとき、感動を伝えられるテイスティングコメントが書けます。時間をかけて何度も酒を口に含んで味もとっても、よいコメントがかけることはあまりありません。
もちろん、一口目と二口目の違いや、しばらく盃をおいて温度が変わったところを伝えることは大切ですが、その一口目は一回しかないのです。
テイスティングは一期一会。その一口、その瞬間を捉え、記憶し、言語化する。私たちのテイスティングは品質管理を目的としない、伝えるためのテイスティングです。それは瞬発力が試されるスポーツであるとともに、言語化という表現力と文芸的センスが問われる芸術なのです。
今日も日本酒コンシェルジュ通信に来てくれてありがとうございます。文芸的テイスティングに乾杯!