お客様から戴いた日本酒の八つのいい言葉・前編〈酔いの余白〉

京都・祇園には、地元の人々をはじめ日本全国や世界からさまざまな人々がお遊びにお越しになられます。そんなお客様と日本酒のお話をしていると、なるほど・・・、と心に響きすーっと入り込んで残る、いい言葉があります。(前編)

お客様から戴いた日本酒の八つのいい言葉・前編〈酔いの余白〉

最近の地酒を飲む若い人達は、笑顔で楽しそうに飲んでいる。友と語りながら自由に気楽においしそうに飲んでいる。やっとだが・・・地酒のおいしさや良質さへの信用性を取り戻したからであろう!!

京都・祇園には、地元の人々をはじめ日本全国や世界からさまざまな人々がお遊びにお越しになられます。そんなお客様と日本酒のお話をしていると、なるほど・・・、と心に響きすーっと入り込んで残る、いい言葉があります。今回はそれを綴ってみました。

まずい酒はない

お酒にまずい酒はありません。お口に合わないだけですので、私には合わないお酒と表現していただければありがたいです

――滋賀県・喜多酒造「喜楽長」蔵元

その通りですよね・・・。蔵元ならではの、いい酒を造っている者としての慈しみの言葉かも知れません!

直接お店で伺った訳ではありませんが、蔵元が日本酒の講演会や勉強会で必ずおっしゃる言葉です。私も日本酒を扱う者として、この言葉を大切にしています。

この言葉、料理や人間関係の好き嫌い等でも言いがちなので気を付けているつもりです。が、ついつい出てしまいがちなので、酔ってくると要注意の言葉かもしれません。でも、酒のせいにしてはいけません! m(__)m

お客様に、「こんな時マスターはどうされますかー」と聞かれます。

「行ったお店のご主人を前にして、出された日本酒がまったく口に合わない時は、どうされますか?」

大体は飲みますが、飲み切るのが余程つらい時もあります。そんな時は、二口ぐらい飲み、なるほどと深くうなずき・・・、「この味は○○さんが大好きなタイプのお酒・・今度教えてあげヨ・・」と笑顔で伝え、「後から食べる△△の料理と飲むと合いそう」と、お酒はそのままにして今飲みたい酒を明確に伝えます。

旨味たっぷりの能登杜氏の酒が好きなことと、天保正一や家修といった歴代杜氏の醸す全国新酒鑑評会の大吟醸出品酒をお店のオリジナル酒として20年間お店に出していたこともあり、「喜楽長」は全国のお酒の中で一番たくさん飲んだ愛着のある銘柄です。

まあるい味のお酒

まあるい味のお酒をください

――俳優 伊武雅刀

甘味・苦味・酸味・渋味・辛味の五味が円のようにバランスのよいお酒。まあるい味は間違いなくおいしいお酒です。

「おいしいお酒をください」と言ってらっしゃるのですが、通人の優しく、凄味のある粋な注文に感心してしまいます! さすが・・・、名by-playerの役者です! これまで彼方此方でたっぷりと旨い酒を召し上がったゆえの、端的で明確なセリフと察し・・・。

こちらの役不足の大根マスターは、四の五の言わずに「承知いたしました」とお出しします。そして、いさぎ良く勉強させていただきます。

お出ししたのは、西の名酒・エクセレントな「福井県・黒龍酒造の二左衛門 純米大吟醸 斗瓶囲い」。一杯目はそれなりの納得される実力銘酒を提供するのが賢明かと・・・。そして東京の方なので西を代表する名酒を。

一口二口、召し上がりいただいてお味を確認なさってから、こちらより、「斗瓶囲いの味乗りした、味の幅や奥行・厚味もある「玉」の様に立体的なまあるいお酒です」と・・・。そして、飲み続けられるおいしさです。

あとの二・三杯目は様子や反応を観て、東の名酒・エレガントな「福島県・大七酒造の宝暦大七 生酛純米大吟醸」か、真ん中の名酒はNormcore(究極の普通)な「静岡県・磯自慢酒造の杜氏 多田信男の名を冠した純米大吟醸」を心の中で用意。

これが酒質・人気・実力・実績・歴史をふまえた私の中の「三大銘柄の三大名酒」です。

Meltyな酔い

日本酒の酔いはmeltyですね・・・。

――来店されたフランス人の日本酒の感想

Meltyとは、「溶ける」とか「溶け込むような」との意。Meltyな酔いとは「こころやからだが溶けていく様な心地よい酔い」のこと。

常々思っていた、酔いの気持ちの表現がスーッと入り、デジャブ感の無い新鮮ないい言葉・・・。これが日本酒の酔いの醍醐味かも!

フランス人にとって日本酒のアルコール度数は16度と高く、食中酒としては酔っぱらってしまい食後酒的なとり方かもしれません。

ワインの攻撃的・積極的、ポジティブな頭で酔う「縦酔い」に対して、日本酒は消極的・メルティでネガティブ、身体全体で酔う「横酔い」が特徴かと・・・。でも、日本酒は日本人の「力水」!! 神事はもちろん、祭事のお祭りはヤッパリ元気酒の日本酒!!

「河原町三条から高瀬川沿いに賑やかな木屋町通りをそぞろ上がり、御池通りを越えると段々とお店の灯りも少なくなり、5分ぐらいで静寂な様相に変わる。風情な高瀬川の『弌の舟入』あたりまで散策すると、行きつく処は行き止まりのホテルフジタ(現在のリッツカールトンホテル京都)。 近くのバーK6(ケーシックス)、 ケーロクと愛称され2階のカウンターより、ガラス越しに歩いて来た街角を見れば雪がちらほらと舞い、想いがけないプレゼントに彼女のジントニックもカランコロンと嬉しそう。メルティな灯り(溶け込む暗さ)に同化して、メルティな酔いに誘ってくれそう・・・。」エッセイ「大人の散歩道」より

酒は旨いから飲む

知人が楽屋に人気焼酎を「身体にいいから」とお持ちすると、『酒は旨いから飲むのと違いますかな・・・』と言われたそうです

――落語家・桂米朝の言として、ファンのお客様より

さすが上方落語の四天王で文化勲章受章の人間国宝、一言居士ならではの、さびのきいたお言葉です。「日本酒は旨いから飲む」、「好きやから飲む」。それ以外は付け足しかも知れません。

古典落語のネタの四割ぐらいはお酒絡みなので、どの落語家も呑みっぷりや酔いっぷりの所作のエア呑みは天下一品です。扇子の骨の様に一本筋の通った端正なお姿や名人の語りの上手や魅力は尽きません。米朝師匠が語ると、それが「日本酒の文化やで・・・」と諭されている様で小気味がよろし!
!(^^)!

この話をしていると、酒のアテとして逆説的な箴言を思い出します。

破滅型の自伝小説作家・葛西善蔵の、「酒はいいものだ。実においしくて。毒の中では一番いいものだ」酒は結構いいやつだが、いい加減に付き合うとしっぺ返しをくらいます!! 御用心。

日本酒博士「坂口謹一郎」翁は最晩年、少しばかりの日本酒の水割りを慈しみながら味わって飲まれていたそうです。

楽酔は愛酒のたまもの 忘れまじ忘れまじ

――九十七歳老 酒博士 坂口謹一郎 翁

後編につづく…


このコラムの著者、はんなり酔吉さんのインタビュー記事です