3. 五感でつくる|津乃吉 吉田大輔さん
津乃吉の吉田さんがいま開発している商品は、津乃吉の宝「じゃこだし」を使ったもの。吉田さんは、「味は五感でつくる」といいます。
いま取り組んでいるのは、商品開発を1から行うこと
— いま開発されている商品はどういったものですか?
実山椒だけの佃煮と葉わさびの醤油漬けを開発しています。それから、山椒じゃこをちょっとアレンジしたものです。飛騨山椒というその場所でしか採れない伝説の山椒があるんですけど、それを使った山椒じゃこを開発しています。
今回の新商品で、フルで、やり始めたところですね。商品開発を一から、原料を探すところからすべて自分でやろうと思ってやったんですよ。いままで味の部分は全部社長にやってもらっていたんですよ。そうすると間違いがないので。でも、いつまでもそれじゃダメなので、今回がいいきっかけなので、やってみようと思いました、不安ながら。そしたら、結構思ったよりも上手くいきました。どんどん楽しくなってきています。
うちには「じゃこだし」があるので、それを使えば、本当に美味しいものができるなというのが、改めてわかりました。__とんでもない宝物があるな__と。
— 「じゃこだし」とはどのようなものですか?
簡単に言うと、うちのちりめん山椒をつくるときの副産物です。ちりめんを蒸して、それをだし醤油に漬け込みます。その後の液がじゃこだしです。
普通は炊いたあとは多分捨ててはると思います。うちは全部残しておきます。昆布、かつお、鯵、ちりめんの4種類のだしが出てるので、捨てるのはもったいないです。でもこんなことをしている所は他にはまずないと思います。
— 新商品でも使われるんですね
もちろん使います。じゃこだしには少し生臭さがあるので、醤油や料理酒、みりんと組み合わせて使います。今回は、結構パンチがある実山椒をたっぷり使うので、みりんとじゃこだしだけで炊きました。
じゃこだしを捨てずに使うことをはじめたのは社長です。それは津乃吉が始まった最初からです。「素材を使い切る」という理念が最初からありましたから。
レシピに頼らず、五感で味を作る
— 新しい商品では、はじめて味もつくられるわけですね。味はどうやってるくるんですか?レシピ開発からされるのですか?
一応レシピは作るんですけど、その通りに作らないことも多いんです。
うちは、本当に、限りなく料理に近いので、レシピはあくまでも基本で、その時の原料によって分量も作り方も簡単に変えます。変えないと最終的に同じものを作ることはできないんです。これはよく社長が言うことです。
— 例えば、昆布やかつおの質や味が違うのにあわせて作り方を変えているということですか?
そうです。そこが大事なんです。同じ作り方をしてたら、原料によって差が出るのは当たり前じゃないですか。
— 自然に作って添加物は入れないから味は変わります、ということでしょうか?
もちろんそうですよ。変わります、でいいんですけど、でもやっぱり、__美味しいと思った味がある__わけです。そこに近づけるという意味の微調整です。
— 「最終的にこういう味にする」ということはやはり言葉にして伝えているのですか?
それは無理です。言葉にはならないです。__五感だけ__です。
機械で測れるものは使っています。糖度を測るブリックス計や水分量を測る固形分計、それから、PHを測る装置、これはジャムとかでは、一定の数値以下でないと菌が発生してまうので、絶対必要です。
でも、基本的には、味に関しては__見た目と音__。
— 音?
音も本当に大切です。音とか言ったら、「そんなんうそやろ」って言われるけど、むっちゃ音は使うんですよ、実は。
つくっている時の、例えば、火をかけている時の「ぱちぱち」という音はすごく大事です。水道を流していたらその音は聞こえないので、じゃこを炊いている時などは止めてもらうくらいです。それくらい集中していないと、仕上がりがばらきます。
目で見て、鼻で嗅いで、耳で聞いて、口で食べて、五感で感じる。それは本当にやっています。こうやって五感で微調整をしていきます。レシピに100gと書いてあるところを120gにするのは何の問題もないです。逆にそれをすることこそが大事です。これは社長からずっと言われてきたことで、それは守ってますね。
— そうすると、自分でしかその味は作れなくなってしまわないですか?
そうです。それがでも、面白いですね。でも伝えることはできます。社長から、「ちょっと薄いんと思うんやけど」と言われたことがあって、でも僕は「昔に比べて濃くなったなー」って思っていたんで、戻そうと思ってそうしたんです。それでも、社長は「うーん、もうちょっと濃いほうがいいなー」と。僕のほうが多分ちょっと薄味好きかもしれないですね。
— 決着は?
最終的に社長は、僕が美味しいと思うものを作らないといけない、と思っています。僕が味を作る役割になったら、僕が美味しいと思うものを作らないといないんです。社長に「あんたが美味しいと思うものをつくれ」とよく言われますけ。
そういうことを思いながら作れるというのは、楽しいです。自分で調整してつくる。いわゆる料理です。それを商品として作るという緊張感はもちろんありますけど、それはすごい喜びで、とてもラッキーなことだと思っています。