「日本酒の日」に想う〈酔いの余白〉

日本酒コンシェルジュ「はんなり酔吉」さんによる、コラム「酔いの余白」が今月から始まります。第1回は、滋賀の地酒の祭典を10年間見つめてきたはんなり酔吉さんが思う地酒文化がテーマです。

「日本酒の日」に想う〈酔いの余白〉
日本酒コンシェルジュ「はんなり酔吉」さんに、今月から「酔いの余白」と題してコラムを書いていただくことになりました。はんなり酔吉さんは京都・祇園の地酒と和食のお店「花観酒房」を経営。2014年に店を仕舞ったあとも、日本酒を応援し伝承する活動をされています。

はじめに

日本酒の類いを飲み始めて40年。地酒と呼ばれる各地の地方銘酒を主に、吟醸酒や純米酒のおいしさに魅かれて30年。

20年ぐらい前は、コレはちょっと?の酒もありましたが、今や地酒専門店や銘酒居酒屋で扱う地酒は愛飲家を唸らせ陶酔させております。

そして今は、35年ぶりの「第3次地酒ブーム」の真っただ中。地酒ファンとして最上の喜びと幸せを感じております♪♪

一年で一番日本酒がおいしい秋

少しづつ・・・風と空と雲が秋色に変わり過ごし易くなって来た。
車窓を見れば、たわわに実った稲穂が刈り取られ、いよいよ日本酒の仕込みの始まりを知らせる。

そして、今年の酒に想いを馳せる・・・

秋は、味覚の秋・文化の秋・そして収穫の秋祭りに・・・酒造りも始まります。

豊かな旬の味覚や自然と相まって、一年で日本酒が一番おいしく、旨いと感じる季節です。

稲刈り風景

日本酒の日

10月1日は「日本酒の日」です。

1978年(昭和53年)に日本酒造組合中央会が、この日を「日本酒の日」と制定しました。以前は酒造年度が10月1日[1]より切り替わることから、酒造界ではこの日を「酒造元旦」として祝っていたためです。

日本酒の日に合わせて、全国で様々な日本酒イベントが開催されています。さながら「秋の酒まつり」です♪

滋賀 地酒の祭典

昨年(2016年)も迷うことなく「第10回 滋賀 地酒の祭典」に参加しました。第1回から欠かすことなく参加しています。もはや「行きつけの店」ならぬ「行きつけのイベント」です。

「滋賀 地酒の祭典」は2006年(平成18年)に滋賀県の各地区にあった酒造組合が「滋賀県酒造組合」に統一された直後に開催された記念すべきイベントです。

県内の蔵元33蔵が参加するこのイベントは二部構成。前半の9月4日(日)に「滋賀県きき酒王決定戦」と「みんなで選ぶ滋賀の地酒会」が、後半の10月1日(土)に「みんなで選ぶ滋賀の地酒会」の結果発表と蔵元を囲んでの「滋賀の地酒きき酒会」が開催されます。誰でも参加できるオープンきき酒会です。

当日は好日晴天で大盛況。1,600名の来場者があり、日本酒ブームをおおいに実感することができました。

滋賀地酒の祭典

前半の体験参加型イベント

前半の「滋賀県きき酒王決定戦」と「みんなで選ぶ滋賀の地酒会」は銘柄を隠しての本格的なブラインド・テスティングのきき酒会です。「きき酒力」学習し、高めたい方には是非とも挑戦していただきたいお薦めの企画です。

きき酒は味覚、嗅覚、そして記憶力を駆使した「舌と頭のスポーツ」だと納得できます!そして、舌も頭も身体も疲れます・・・

後半の「みんなで選ぶ滋賀の地酒会」の結果発表と「滋賀の地酒きき酒会」

二つとも同じ会場で開催されます。会場の真ん中に「みんなで選ぶ滋賀の地酒会の結果発表」試飲ブースが、その周りを蔵元ブースが取り囲んでおり、自由に蔵元やスタッフと懇談しながら試飲を楽しめます。

客層は、滋賀の地酒に興味を持つ方々。日本酒が初めての方や日本酒の熟人・達人など老若男女様々です。

一堂にたくさんの銘柄が出品されているので、蔵元ブースは「盛っ切りサービス」の枡から酒が溢れんばかりの入れ替わり立ち代わりの盛況ぶりです!!

そんな中から、自分好みの酒やうまい酒を見つけ出す楽しさと醍醐味・・・そして、結果発表の各蔵の出品酒と優勝酒の試飲ができるのも酒飲みには嬉しいものです。

1時から5時の終了まで、自由に休憩を挟みながら4時間タップリと楽しめます。

第一回滋賀地酒の祭典パンフレット
第一回滋賀地酒の祭典パンフレット

10年、「滋賀 地酒の祭典」を見つめて

10年間、毎回このイベントに参加しているのは、一同にきき酒ができること、蔵元とお話ができることはもちろん、各蔵の進化の様子が定点観測できるからです。

「滋賀 地酒の祭典」は、学習型や体験型と色々と趣向が凝らされており、満足度の高いイベントです。このようなイベントを開催できるのは、比較的小規模な「地酒」の範疇の酒蔵どうしでまとまりもよく、日頃から情報交換等で啓蒙や研鑽しているからでではないでしょうか。

全国レベルになった滋賀の酒

この10年ぐらいで、平成流の若い蔵元杜氏[2]や蔵内杜氏[3]が半分くらいに増え、外からの後継者も入り、一気に世代交代が進みました。

「作り手起点のプロダクトアウト」から、「お客様目線のマーケットイン」の顧客満足度の高い酒造りで多くの酒蔵が全国レベルになりました。良質の酒が何よりの証左で、今後も大いに伸びしろがあります。これからが楽しみです!!

2016年の滋賀地酒の祭典で知事賞を受賞した松の司
2016年の滋賀地酒の祭典で知事賞を受賞した松の司

京都や大阪の飲食店や酒屋さんも足を運ぶイベント

近江をこよなく愛した「白洲正子」さんは、近江の歴史・文化を「京都の楽屋裏」と称して足を運ばれました。

食文化では、京の家庭の台所や飲食店を賑わす食材の近江米、近江野菜、近江牛・琵琶湖の諸子(もろこ)や鮎や天然鰻とともに、「近江の地酒」も地元伏見の酒に劣らず、家庭の食卓や飲食店で人気を博しています。

それを知ってか、京都・大阪の飲食店や酒屋さんも、よく「滋賀 地酒の祭典」の会場に足を運んでおられます。これ等も、このイベントが耕した大きな効果と実績でしょう!!

減少する酒蔵、復活する酒蔵

・・・とは言え、1994年(平成6年)には64蔵あった酒蔵が、2016年(平成二八年)には40蔵くらいとなり[4]、22年間で3分の2近くに減るという現実に吃驚 (*_*; です。

今の時代何でもそうですが、昔からあるものは努力しなくても売れる時代では無く、覚悟を決め、創意工夫と精一杯の努力で自ら汗を掻き、やっと生き残れる第三次地酒ブームなのでしょう!

そんな中、昨年より東近江市五個荘の中澤酒造「一博」が15年ぶりに自社蔵での醸造を再開したのは嬉しい便りです。畑酒造・大治郎蔵で11年間「一博」を造りながらの修行を終えてのことです。

イベントが産んだ日本酒ファン

このイベントを機会に、たくさんの地酒ファン、滋賀の地酒応援団、サポーターが生まれた事でしょう・・・

また、酒蔵も大きなパワーを頂いたことでしょう!!

そして、全国の地酒蔵もますます進化しているので、更なる「高み」を目指してくれると期待したいものです!!

毎回沢山の地酒ファンやただの酒呑みや酔っ払いを楽しませ、酒造りの心意気と覚悟を感じさせてくれるこのイベントが、いつまでも永く続く事を望みながら、毎回楽しみに参加致しております。

進化と成長を魅せ アッ! と思わせる 滋賀県の酒 !!

変革や革新の蔵元や杜氏の活躍に化学反応して活性化する近江の酒。
乞う ご期待 !!

米 おかげさまで生産県です
水 ふつつかながら近畿の水甕をお預かりしています
蔵 仲はいいけど目指すところはてんでんばらばら
       (中略)
琵琶湖を優しく抱くように
蔵の数だけ美味しい地酒
そう「ひと」が酒を造るのだから

――「滋賀の地酒の祭典」パンフレットより抜粋

それぞれの蔵には、どんな未来図が描かれているのでしょうか、楽しみです♪♪

「酒いろいろ おのおの酒蔵の手柄かな
 酒いろいろ おのおの飲手の手柄かな」

今宵、料理を囲み、身近な人と笑顔で幸せに飲まれるならば、こんな嬉しい事はありません。

「諸子旨し淡海の酒も味方して」酔吉



このコラムの著者、はんなり酔吉さんのインタビュー記事です


  1. 1965年(昭和40年)より、新・酒造年度(BY)が7月1日〜翌年6月末迄と変更されています。 ↩︎

  2. 蔵元が杜氏を兼ねる形 ↩︎

  3. 蔵で育った社員杜氏 ↩︎

  4. 清酒製造業の概況|国税庁 ↩︎

もっと知りたい

滋賀地酒乾杯10000人プロジェクト
10月2日、おうちで、いつものお店でみんなで滋賀酒で乾杯しよう~滋賀の地酒は良質な近江米を使用しています~
酔いの余白 - 日本酒コンシェルジュ通信
日本酒コンシェルジュ「はんなり酔吉」のコラム