文房四宝・醸造四宝・居酒屋四宝・酒呑四宝〈酔いの余白〉
はんなり酔吉のコラム。書道の「文房四宝」のお話から、「醸造四宝」「居酒屋四宝」「酒呑四宝」まで広がります。
書道の大切な道具「文房四宝」
京都の寺町御池の「本能寺」さんの近くには、「文房四宝」の聖地、創業350年の宮中御用の老舗「鳩居堂」があります。
ここでは書画用品のほかに、お香・お線香やはがき・便箋・金封・ポチ袋や和紙工芸品などが取り揃えられています。地元の人々にも愛され観光客や外国人も多く、商家の大店の店構えと相まって落ち着いた風情のほどよいにぎわいの人気店です。
「文房四宝」とは、書道の大切な道具の「硯・墨・紙・筆」のこと。文人の書斎を文房といい、書斎で書画に用いる用具も文房と称したからです。
この四つの中で一番重んじられ「文房四宝の王者」とされるのが「硯」。使用しても消耗が少なく、古美術・骨董としての価値が高いからです。次に墨・紙・筆の様です。
日本酒の「醸造四宝」
では、日本酒の「醸造四宝」は何になるのでしょうか?
それは、「米・麹・酵母・水」です。
日本酒の原材料は、米と米麹。そして日本酒の80%を占める水です。日本酒の「味は米から・酒質は麹から、香りは酵母から・口あたりは水から」と言われています。
酒造りの工程の大切さを表した格言「一麹・二酛・三醪」や、杜氏制度の三役「杜氏・頭・麹屋」または「頭・麹屋・酛屋」をみても「麹」の重要さが納得できます。
最近では、麹造りの前段階の「原料処理」が重要だと言われています。それは洗米や浸漬・蒸米の工程です。吟醸造りでは浸漬がとくに重要です。
世界の醸造法のなかでも技術的に優れた「並行複発酵」は日本酒造りの特徴。糖化とアルコール発酵を同時に行うのは麹と酵母。また、造る酒質に合わせて酵母を選択します。
「醸造四宝」を色々と選択し掛け合わせて「蔵味」は造られます。醸すのは、杜氏や蔵人の醸造技術「醸し技」といわれる「造り手の能力」です。
「作る」と「造る」
日本酒は600ぐらいの味や香りの成分から出来ています。ワインは500、ウィスキィーは400ぐらいと言われますが、日本酒ではそれらよりも多い600の成分が微妙に絡み合い、一つの「蔵味」が出来ている訳です。
まさしく自然が造りだす醸造の神秘です。人間もいろいろと…お手伝いいたします。
ちなみに、「作」という字は「人が竹をたわめて垣をつくる姿」を表しています。おなじ「つくる」でも、酒造りの「造」は「人が神棚に榊を供える姿」。「造」という字には、人智に及ばないものに対する祈りも込められているようです。最善の技術と努力をして、あとは自然にまかせます!
酒蔵の主たる処には、京都・嵐山近くの松尾大社の醸造神「松尾様」が祀られております。酒造りに携わる方々は「今年もよい酒が造れますよう。そして、無事で有ります様に」と祈ります。二礼二拍一拝。そして私たちは「旨い酒が飲めます様に」と祈ります。
「居酒屋四宝」と「酒呑四宝」
「文房四宝」、「醸造四宝」を語りましたが、さて、「居酒屋四宝」とは何でしょうか? 「酒・肴・主人・客」の「いい酒・いい肴・いい主人・いい客」かな…。
ならば「酒呑四宝」は…。「酒・人・季・肴」では…。「一人・二季・三肴」で、親しい友人知人と、桜が咲いたや鴨川の納涼床へと、季節の走りや旬の美味いものといろいろ楽しんでおりますが…。
いやいや「酒・酒器・女・肴」で、珍しいレア酒が入ったと、自慢の備前作家「隠崎隆一」の徳利と盃を愛でながら、恋女房(古女房?)の作る手料理のアテでと…。
いやいや…四つもいらない「酒と肴」があれば十分…。
「穴子裂く 大吟醸は 冷しあり」 長谷川 櫂